1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、そして今回の熊本地震……私たちはそれら震災で多くの建物が倒壊したのをテレビで目の当たりにしている。それだけに、地震大国である日本において、不動産投資を行うことにリスクを感じる人も少なくないであろう。しかし、適切なリスク管理を行えば致命的なダメージを回避することは可能である。今回は賃貸経営と地震対策について解説しよう。

賃貸経営を行う前にまず考えるべきこと

我が国での賃貸経営は過去の教訓から、単に利回りを追求するだけでなく、適切なリスク管理が求められる。

国土交通省住宅局住宅生産課の報告書『東日本大震災の概況』によると、1995年に発生した阪神・淡路大震災での死者は6434名、10万4000棟を超える建物が全壊した。また、2011年の東日本大震災では、1万5824人の死者と、11万8000棟を超える建物が全壊している。

賃貸経営を行う上で代表的なリスクマネジメントの手法には、(1) リスクの軽減、(2) リスクの分離、(3) リスクの転嫁……などが考えられる。以下、順番に解説しよう。

耐震性を高めて「リスクを軽減」する

リスクを軽減するポイントは2つある。一つは「建物の耐震性を高める」ことだ。

建物の耐震性の目安として、建築基準法の改正がある。建物の耐震性に関係する主な改正は1971年、1981年、2000年の建築基準法及び施行令の改正が挙げられる。法改正前後では建物の耐震性が異なるため、特に中古物件を購入して賃貸経営を考える際の参考にして頂きたい。

最近では、建物自体が制震装置で揺れを吸収する仕組みである「制震」や建物下部の免振装置で揺れを吸収する仕組みの「免震」の建物で賃貸経営を行うケースも徐々に目立つようになってきた。

耐震性を高めることはコスト増につながり、利益に影響する可能性が高いといえるが、賃貸入居者募集の際に「制震」や「免震」の建物であることをPRの材料として活用するケースもあるようだ。

活断層等などを意識し、賃貸経営を行う場所を選ぶ

リスク軽減の2つ目のポイントは、「活断層等などを意識し、賃貸経営を行う場所を選ぶ」ことだ。

活断層や地震の発生確率等の調査方法としては、国土交通省国土地理院による『都市圏活断層図』や、文部科学省地震調査研究推進本部による『全国地震動予測地図』などが参考になる。

東京都であれば東京都都市整備局の『地震に関する地域危険度測定調査』もお勧めだ。建物倒壊危険度(建物倒壊の危険性)・火災危険度(火災の発生による延焼の危険性)・総合危険度(建物倒壊や延焼の危険性)が、危険性が低い【ランク1】から、危険性が高い【ランク5】まで分類されているので非常に分かりやすい。インターネットでも簡単に検索できるので賃貸経営を行う前にはチェックすることをお勧めしたい。

また、万が一の際に備えて賃貸経営を行う地域を複数に分散することで、自然災害による致命的な被害を回避する「リスクの分離」という考え方も有効だ。

リスクの転嫁「地震保険」の意外な盲点

リスクの経済的影響を他に転嫁(移転)することも非常に有効である。具体的には地震保険を利用することが考えられる。ただ、地震保険については意外な盲点があるので留意する必要がある。具体的に説明しよう。

まず、地震による被害として想定されるのは火災・損壊・埋没・流失等が考えられ、地震保険に加入すれば一定の範囲内で補償されることになる。

一般的に誤解が多いのは、地震による火災被害のケースである。実は地震による火災被害は、火災保険のみの加入だけでは損害保険金支払対象外となる。主たる火災保険とは別に地震保険に加入していなければ補償されないのだ。

保険金額、保険料、保険金について

次に保険金額、保険料、保険金について見てみよう。

《保険金額》
地震保険金額については主たる火災保険金額の30%~50%で設定するルールとなっている。さらに同一敷地内ごとに建物は5000万円、家財は1000万円が上限となる。(※上限額は部屋ごとに算定。一例として4部屋であれば2億円が限度額)

《保険料》
保険料は地域と構造(構造は「鉄筋コンクリート造等」か「木造等」かの2区分)によって異なる仕組みだ。建築年割引・耐震等級割引・免震建築物割引・耐震診断割引といった割引サービス(10%~50%)もあり、耐震性が高い建物であればその分地震保険の保険料の割引率は高くなる仕組みとなっている。

なお、賃貸経営の際に支払った地震保険料については、不動産所得の必要経費に該当するので、併せておさえておきたい。

《保険金》
万が一の際の保険金については、地震保険金額の一定割合が支払われる仕組みである。なお、1回の地震等による損害保険会社全社の支払保険金額総額が11.3兆円(2016年4月現在)を超える場合には、支払われる保険金が削減されることは意外と知られていない事実なので注意しておきたい。

最後に補足として、「保険料」と「保険金の支払い方法」については、2016年12月31日以前始期契約の場合と2017年1月1日以降始期契約の場合とで異なる点に注意していただきたい。加入前に各保険会社に問い合わせてみるのも一つの方法だ。

いずれにせよ賃貸経営に係る地震のリスクについては、地震保険だけでは十分カバーされるわけではない点を充分認識しておくことが必要であるといえよう。

不動産投資をはじめようとする人たちへ

100万円預金しても普通預金の利息で年間10円の時代。実際、資産運用の一つの選択肢として不動産投資を検討している人が増えているが、リスクマネジメントまで考慮に入れると非常に奥が深い投資といえる。

リスクマネジメントの観点からは、先に述べた通り地域の異なる複数のアパート経営を行うことも選択肢のひとつとして考えられるが、不動産投資を行う際は、人口減少の時代であることも考慮に入れると、時代のニーズに合った不動産投資を行うことが必要不可欠であることは間違いないといえる。

時代の変化によって求められる居住スペースや求められる設備が変化することも、投資家にとっては重要な着目点なのだ。

建物の安全性についても同様のことがいえよう。今後は益々入居者の安全性も考えて制震や免震なども考慮に入れた不動産投資が着目されてくるのではなかろうか? 建物の耐震性を高めることは、入居者の満足度を上げるだけでなく、万が一の建物の倒壊リスク等を軽減させる要因のひとつとなる。

今後のリスクマネジメントを考慮に入れた有効な不動産投資手法の参考の一つとしてお役に立てれば幸いである。

文・峰尾茂克(THE FP コンサルティング 代表取締役)/ZUU online

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