過去にはゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)といえば、何度話しかけても同じセリフを繰り返すのがお決まり。プレイヤーキャラクターに家探しされようと、テーブルの上に土足で上がられようと怒ることもないのが普通だった。ところが近年、NPCを個性と深みのある人物として生き生きと描写し、ゲーム世界のリアリティを高めようという動きがある。その手段の一つが、生成AIによるキャラクター作成だ。

昨年12月、NPC作成ツールのスタートアップInworld AIが、生成AIを用いたNPC作成ツールをパワーアップさせた。同社はその前月11月に、マイクロソフトのXboxとのパートナー契約を取り付けたことで話題になった企業だ。日本では電通グループが10月に出資を行っている。

生成AI活用のNPC作成ツールをデベロッパー向けに提供

Inworld AI公式サイトより引用

Inworld AIは、2021年設立の米国カリフォルニア州を拠点とする生成AI開発スタートアップだ。ゲームデベロッパー向けに、「Character Engine」と呼ばれるNPC作成ツールを提供している。UnityやUnreal Engine、Robloxなどのゲーム開発プラットフォームとAPI連携させて使うのが特徴だ。

トレーニングおよびデプロイなど、生成AIを動かすうえで必要になるのが半導体。Inworld AIは、大手半導体サプライヤーNVIDIA社が展開する「NVIDIA Inceptionプログラム」のメンバーとして、開発全体にわたってサポートを受けている。

昨年末にアップグレードされたのは、「Character Engine」に搭載されている「Character Brain」と「Contextual Mesh」という機能だ。NPCの設定に生成AIの機械学習を使って、より細かく、より個性的なキャラクターに仕上げていける。これらの機能を使うことで、ゲームに登場するNPCたちの、リアルでダイナミックな演出が期待できるわけだ。

「Character Brain」ではキャラクターの人物像を徹底追及

Inworld AI公式サイトより引用

「Character Brain」は、細部まで徹底的にこだわって1人のキャラクターを構築していける機能だ。あらゆるタイプのパーソナリティを学習したAIが、開発者が設定するキーワードや特徴・画像に基づいて生成する。Character Brainで設定できる項目は「Goals and Actions」(目的と行動)、「Long-term Memory」(長期記憶)、「Personality」(性格)、「Emotions」(感情)、「Real-Time Voices」(リアルタイムボイス)、「Knowledge Filters」(知識フィルタ)の6点。

音声、会話、外観、役割、性格、感情など、どんな人物なのか(NPCは人間とは限らず、動物や物体かもしれないが)、詳細を設定しながら最終的なイメージに近づけていく。

Inworld AI公式サイトより引用

この機能の凄い点は、そのキャラクターのバックグラウンドや、幼少時の思い出、過去のトラウマなども設定できることだ。会話やジェスチャーの背後に、人物が抱える過去が垣間見えるようなリアルなNPCが実現可能となる。

例えば「悲しみ、怒り、嫌悪、期待」など18種の感情から選択可能で、感情の度合いも8段階で設定できる。

Inworld AI公式サイトより引用

デフォルトで設定されているキャラクターに、「年齢不詳」、「誇り高い」、「嘘をつかれると怒る」などの詳細を追加すると、AIがキャラクターをそれらしく更新してくれる。もちろん、全くのゼロからの生成も可能だ。