ウェブ漫画だからこその強みがある

 今でこそ漫画家の収入源は多様になったものの、昔は今ほど自由な選択肢がなかったとぬこー様ちゃん氏は振り返る。

「私が20代だった2000年代はインターネットの普及期でして、出版社以外は漫画家の活動場所がほとんどありませんでした。一部の漫画家のなかには、個人で活動する人もいましたが少数派だった印象です」(同)

 多くの漫画家にとって出版社に依存せざるをえなかった2000年代だが、なかには個人サイトを立ち上げて漫画を発信する漫画家も現れた。たとえば、商業連載でリメイクされ、アニメ化もされた『ワンパンマン』(原作:ONE)や『ホリミヤ』(原作:HERO)は、もともとはウェブ漫画として発表され話題を集めていた作品だ。その後、2010年代にはSNSが普及し、徐々にXで漫画を投稿するアカウントが増え始める。そして、SNSで本格的に収益が見込めるようになったのは、2018年頃なのだとか。

「この頃から『pixivFANBOX』『Skeb』といったクリエイターへの定額支援サービスが始まったんです。これはユーザーが月数百円ほどクリエイターに課金することで、クリエイターが提供する独自のコンテンツを楽しむことができる仕組みになっており、漫画家にとっては安定して収入を得られる手段となりました。これらのサービスは、メディアとしてしっかり機能しているので、作品の発信方法がかなり変化してきたと感じます」(同)

 定額支援サービスの追い風に乗り、続々と個人で稼ぐ漫画家が増えてきたという。

「しかし、売れるために作家自身のセンスと技術が問われるのは、商業誌の漫画家と基本的には変わりません。さらにいうと、自分の発信するコンテンツを多くのユーザーに知ってもらうよう、育てていく必要もあります。そのためにはネットの漫画のメリットや、ネットでどのように読まれているかをしっかり把握しなくてはいけません。

 現在は短い時間に楽しめるスナックコンテンツ全盛の時代。『TikTok』や『YouTubeショート』など、短時間で満足できるコンテンツが求められていますが、漫画でもそれは同じ。4ページぐらいで手早く読むことができる漫画が読者にウケるんです。しかも更新スピードも速いので読者にも飽きられにくく、またリプライなどで読者の反応が直に反映されるのでフィードバックの回数も多い。つまり、ウェブ漫画は消費されやすく、フィードバックを活かし、読者に合わせて作風を変更していくといった工夫が重要なのです」(同)

 対して、たとえば商業誌の週刊連載は掲載が週1回で、かつ1話あたりのボリュームが十数ページ。当然、月刊連載なら掲載はたった月1回で、1話当たりのページ数はさらに増える。

「読者が1話を読むのにそれなりの時間がかかりますし、編集部や編集者との兼ね合いもあって漫画家独断で作風を変えづらい。したがって消費しやすさ、機転の利かせやすさは、ウェブ漫画のほうに利があると考えています。じっくりコンテンツを育てて、一定以上の収入が得られるフェーズに入れば、個人でも食っていけるんです」(同)