客が注文内容を紙に記入して店員に渡すという「アナログ」な注文方式で知られていたイタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」が、QRコードをスマートフォンで読み取るセルフオーダー方式への切り替えを段階的に進め、話題を呼んでいる。実際に店舗で使用して体験したユーザに取材すると、そのメリットとともに難点も浮かび上がってきた。
全国に1059店舗(2023年3月現在)を展開し、300円(税込み/以下同)の「辛味チキン」や「ミラノ風ドリア」、400円の「ミートソースボロニア風」、200円の「フレッシュワイン(デカンタ250ml)」など低価格な商品が多く、それが多くのファンを惹きつけているサイゼリヤ。原材料費の高騰を受けて外食チェーン各社が相次ぎ値上げに動くなかで値上げをしない方針を打ち出すなど、消費者に寄り添う姿勢で高い人気を誇っている。
業績も概ね安定している。2023年8月期決算は、最終的な当期利益は減益となったものの、売上高は1832億4400万円(前年同期比27.0%増)、営業利益は72億2200万円(17.1倍)、経常利益は79億4900万円(26.2%減)、親会社に帰属する当期利益は51億5400万円(8.9%減)となっている。
実はサイゼリヤはかつて、携帯端末を使った注文方式を導入していたことがある。2012年には既存の注文端末に加えて、アップルの携帯プレーヤー「iPod touch」に専用アプリを組み込んだ注文端末を導入。その後は店員がテーブルで注文を取る形態が主流となったが、20年には各テーブルに置かれた注文用紙に客がメニューを記入してホール店員に渡し、店員が端末に入力するという方式となっている。
店側に大きなメリット
そんなサイゼリヤがセルフオーダー方式を導入して「突然のDX化」を始めたと昨年から一部で話題になりつつあったが、導入する店舗が徐々に増えるにつれ認知が広まっている。ちなみにサイゼリヤはHPなどで導入店舗を公表していない。
気になるのが、どのような方式なのかという点だが、結論からいえば、通常の飲食店でみられるセルフオーダーシステムと変わらない。各テーブルにはテーブル番号とQRコードが印字された長方形型の小型ディスプレイが設置されており、客はスマホでQRコードを読み取ると、スマホに注文用画面が表示される。利用人数や紙のメニュー表に書かれた数字を入力し「注文かご」に入れていき、注文ボタンを押すと、料理が運ばれてくる。画面上には「追加注文」「店員呼出」というボタンもあり、追加での注文なども可能。食事が終了したら「会計する」を押し、スマホ画面に表示されるQRコードをレジで提示、店員が機械でそれを読み取って支払いに進むという流れだ。
実際に利用したIT企業勤務のSEはいう。
「スマホ画面のユーザビリティー的には、無駄がなく、極めてシンプルで迷うポイントがないという意味で優れていると評価していい。ただ、数字を自分でいちいち打ち込まなければならないというのを手間だと感じる人はいるかもしれない。他の飲食店では画面に各メニューの写真が表示されて、それを選択して数量を入力するだけの形式のものもあり、その点の使い勝手については評価が分かれるところだろう。また、食事をしながらいろいろとスマホをいじる人も多いので、無意識のうちにオーダー用の画面を閉じて、追加注文や会計の際にどうすればよいのかわからず焦ってしまう人もなかにはいるかもしれない」
紙で注文する形式と比較した場合の優位点などはあるか。
「これまでは注文する商品の番号を記入した紙を店員に渡すためにテーブルに置かれたボタンを押し、呼び出す必要があったが、混雑時には何度押しても来ないこともあった。その手間やストレスが減るというのはメリットだが、客側のメリットという意味では、それくらいしかないともいえる。
大きなメリットを受けるのは店側のほうだろう。これまでは注文を受けるたびにテーブルまで行き、客から紙を受け取り、その内容をシステムに入力しなければならず、1回当たり3分、一組当たり3回注文を取ると仮定すると計9分。10組で計90分にもなる。店舗によってはホール担当スタッフの人数を削減できるところもあるかもしれない」(外食チェーン関係者)
では、客側のデメリットはあるか。
「基本的には『ない』と思われる。サイゼリヤには60代以上とみられる客も珍しくなく、なかにはスマホでのオーダーがハードルになる人もいるだろうが、口頭で店員に注文することも可能なので、そういう人はその方法を取れば済む話。ただ、セルフオーダー方式があるのに店員を呼び止めて注文するということに、ためらいを感じて、無理してスマホを使って注文しようとしてストレスを感じるというケースはあるかもしれない」
当サイトは2023年12月4日付記事『紙で注文のサイゼリヤ、スマホのセルフオーダー導入に「複雑な反応」と絶賛』でサイゼリヤが新方式を導入した理由について報じていたが、以下に再掲載する。
――以下、再掲載(一部抜粋)――
コロナ禍による接触機会削減の機運もあり、テーブルに備えられたQRコードを客がスマホで読み取り、表示されたウェブページなどから自分でメニューを選択・入力し注文する方式を導入する飲食店が増加している。
「普及により導入コストが下がってきていることもあり、人件費の上昇と人手不足に悩む飲食業界にとっては導入のメリットが大きい。ホール担当スタッフの注文取りにかかる時間や、ありがちな『注文したものと違う』というミスが削減され、全体的なオペレーションコストの削減につながる。増加する外国人観光客とのコミュニケーションミスによって生じるトラブルも減らすことができる。
今の40代以下の人はスマホで何かを買ったり注文したりという行為に慣れており、注文のたびに忙しそうに動き回る店員を呼び止めることに、ためらいを感じる人も少なくなく、そうしたストレスの解消にもつながる。一方、60代以上の人のなかには、専用端末のタッチパネルでの注文にすら拒否反応を示す人も多く、その年代の客層を寄せ付けなくなってしまうというリスクはある。専用端末やスマホでの注文を嫌がるお客には口頭で注文を取るようにするという方策もあり、実際にそうしている店もあるが、店員がわざわざ端末に注文を入力する必要が生じたりして、注文に関するオペレーションが煩雑になってしまい、セルフオーダー方式導入の効果が薄れる可能性もある。店のロケーションにもよるが、思い切って『スマホで注文できない客層は切り捨てる』、つまりターゲット顧客から除外するというのも一つの選択肢だろう。銀座の高級寿司店や高級フレンチ店が若年層の利用を想定していないのと同じで、一部の客層を除外するというのは戦略上重要なこともある」(飲食業界関者)