ヘッジファンドは個人投資家にはあまり染みの薄い投資対象だが、株式や為替、コモディティーなどの市場では存在感があり、その動向が大きな価格変動につながることもある。ここでは同ファンドの性格とその投資戦略を紹介していく。

ヘッジファンドは多くの市場で存在感

投資信託などは、相場が一定方向に動いたときに利益が出ることが多いが、ヘッジファンドは市場全般とは異なるリターンを追求する点で異なる。先物・信用取引など様々な投資手法を駆使して市場リスクをヘッジ(回避)する。また、投資信託などは広く投資家から資金を集めるのに対し、ヘッジファンドは年金や保険会社などの機関投資家や富裕層等、少数の投資家の資金を運用することが多い。

ヘッジファンドには投資の対象や手法により様々な種類があり、一概に分類できないが、専門調査会社ユーリカヘッジによると、昨年末の残高が全体の36%と最も多かったのが株式ロング・ショート、次いでマルチ・ストラテジー(16%)などとなっている。以下では比較的一般的なヘッジファンド9種を順に紹介する。

1、株式ロング・ショート

株式ロング・ショートはその名の通り、株式のロング(買い持ち)とショート(売り持ち)のポジションを同時に取る伝統的な手法。業績などから割安と判断すれば買い、割高な銘柄を売って、片方あるいは双方の株価が修正された時点でポジションを解消して利益を得る。

相場全体が大きく動いても、片方のポジションがヘッジの役割を果たすので、一方的損失を被るリスクが低い。また、ある製品の先行きに確信がある場合は、その製品の有無により類似銘柄でロング・ショートを行う場合もある。例えばキヤノンとリコーは同じ複写機大手だが、円高が進み、デジカメ市場も悪化すると思えば、輸出とデジカメの比率がともに高いキヤノンを売って、リコーを買うなどの戦略が考えられる。

2、マルチストラテジー

マルチ・ストラテジーは、後述のレラティブ・バリューやグローバル・マクロなどの複数の戦略をひとつのファンドにしたもので、大型ファンドが採用するケースが多い。広くリスク分散が図れるため、機関投資家の利用が多いようだ。

3、マネージド・フューチャー

マネージド・フューチャーは、その運用元の商品投資顧問業者の頭文字をとってCTAとも呼ばれ、株式コメントなどによく登場する。日本では円ドル相場と株式先物の関係で引用されることが多いが、実際には原油、穀物を始め世界中のあらゆる指標からそれぞれの相関関係を高速コンピュータで割り出して売買する。

ビッグ4の一角、マン社が最も注力するのは統計学の博士号を持つ人材確保だという話もある。リーマン・ショック直後も上昇を続けたことで一躍脚光を浴び、今も投資残高の1割強を占めるなど人気がある。

4、イベント・ドリブン

イベント・ドリブンは、企業のM&Aなどのイベントが起きる際に株価のミスプライスを収益機会にする戦略だ。例えばあるM&A案件が公になり両社の株価が大きく動いた場合、それが実際に成立したときに合併比率の理論値に収斂するとみて売り買いの両ポジションを取る。直近では日産が筆頭株主になるとして三菱自動車の株価が高騰したが、これを大きな投資チャンスとして狙うということだ。

5、フィックスト・インカム

フィックスト・インカムは、ヘッジファンド戦略のひとつであるアービトラージ(裁定取引)の一種で金利系の資産に特化する。債券や金利先物で利幅が乖離する割高な銘柄を売り、割安なものを買う。

ただ、市場では常にこのような裁定が働くのでその乖離は非常に小さく、すぐ解消に向かうため利幅は限られる。株式の場合は、米アップル社のように複数市場に上場する企業や、日本株なら米国の同銘柄ADR(米国預託証書)との間でアービトラージをかけられる。

6、グローバル・マクロ

グローバル・マクロは単にマクロとも呼ばれ、世界経済の見通しを基に世界中で株式やコモディティーなど多様な現物・先物のポジションを取る。ただ、見通しが狂うと大きな損失が生じるなど、必ずしもヘッジが効いているわけでなく、投資分散のための選択肢のひとつという位置づけ。米著名投資家ジョージ・ソロス氏のクオンタム・ファンドが有名だ。

7、レラティブ・バリュー

レラティブ・バリューは、株式と転換社債など似通った金融商品で、割高・割安なものを売買する点でアービトラージと似ているが、後者がミスプライスに注目するのに対し、レラティブは価格がいずれ収束するとの考えに立っている。したがって市場全体が大きく変動する局面で利益を上げるのは難しい。

8、ディストレス戦略

最後に、ディストレス戦略は、破産した、あるいは、しそうな企業や国の株式、不動産などの資産、債券を極端に安く買い、その後の収支改善や再生ファンド介入などで価格が回復したときに利益を得る。アルゼンチンのデフォルトやギリシャ危機などの際に国債を大量に買い集め、その後の和解で多額の利益を得たことで知られている。

機関投資家はリターンよりもリスク分散を重視

過去2年間のヘッジファンド全体の加重平均リターンは、14年が4.5%、15年が-0.1%と、例えばTOPIX(東証株価指数)のそれぞれ15.9%と1.2%に比べると分が悪い。それでも世界の運用残高は08年末のボトム1.4兆ドルから昨年末には2.5兆ドルと2倍近くに増えている(数値はいずれも専門調査会社HFR調べ)。これはリーマン・ショックが起きた08年に下落幅が株式の約半分にとどまるなど、ヘッジファンドが市場のパニック時でもリスク分散効果を実証したことで年金などの機関投資家の保有高が増えているためだ。

同ファンドを巡っては、98年に10兆円規模のLTCM社が破綻し、08年は元ナスダック会長による大規模詐欺事件が起きるなど、一般には投機的、ハイリスクと思われているがそうでないものは多い。個人投資家にとってハードルは依然として高いが、その手法は参考になるだろう。

文・上杉光(シニアアナリスト)/ZUU online

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