“Tokyoショールーム戦略”

 ここまで読んで、「なるほど、売れないお店によって、悪い在庫を極力最小化できるのか」と感心していないだろうか。それ以上に、そもそも、あれだけ売れて仕方なかった時代が過ぎ、日本のアパレルの超デフレ化がおき、韓国や中国から1000円、2000円という、私のように昭和の人間にとってはついて行けないほどの低価格で、特に“Z世代”と呼ばれるファッション購買セグメントのハートをがっちり掴んでいるのだ。

 つまり、これからのファッション産業の大部分は、アジアのD2C(Direct to Consumer)企業(アジアは世界のアパレルの工場で、その工場が自分で商品を売り出した)にやられてしまうことになり、低価格化と外資企業の越境ECと呼ばれる国をまたいだEC販売で、市場は小さくなってゆく。加えて、人口減少、失業、所得の減少などファッションなどに使える金は若者には残されていない。そうなると、比較的安価で長く着られるユニクロのような服が一層強さを増し、日本市場はユニクロだらけになるというのが私の見立てである。

 こうしたなか、「売れないお店」だけでいいのか、というのが、私が立てた第一命題である。一般的にリテール産業は、内需型産業といわれているが、今日本では、企業は必用な量の倍も服をつくり、それらの多くがダブルショウキャクによって企業の利益を悪化させているのだ。そして、こうした状況を避ける方法は、論理的に二つしかない。

 それは、ファッション衣料製品からファッション雑貨などへ「売る商品」を替えるか、日本市場だけでなく海外市場に売るという「市場」を替えるかのいずれかである。

 売る商品を替えるのは、たやすいことではない。なぜなら、アパレルの多くは製造業だからだ。やはり、ここは韓国や中国が日本市場に入ってきているように、我々のデザインした服を世界に売ってゆくことが残された道である。これが、私が提唱する「売らない店」ならぬ、「売らない国」なのだ。

 そして、そのブランドの中核にいるのが「Tokyo」だ。アジアの人と話をすれば、「Tokyo」という言葉が持つブランド力を感じることが多い。あのユニクロも銀座店舗には「ユニクロTokyo」があり、Tokyo baseというアパレルは純国産の服をアジアで販売して成功している。立派な上場企業は、すべてのブランドに「Tokyo」という名前を冠にしている。

「Tokyo」が醸し出すイメージは、こんなものだろう。無駄がないミニマリズム。素材感、原材料が持つ色や風合いを大事にし、人が見ないところでも丁寧な仕事をしている。デザインでいえば、モダン・コンテンポラリーといって、近代的で近未来を映し出すスタイリッシュなラインなどだ。

 私には、はっきりと「Tokyo」が持つイメージが見える。この「Tokyo」をファッション化し、「Tokyo」の青山、代官山、大手町などをファッションシティとしてイメージ想起させる。上記の「売らないお店」のショールーム化なら、「Tokyo」をショールームシティーとするわけだ。そして、成長著しいインドネシア、インドなど、爆発的に人口が増えている国に販路を拡大する。商社や政府などが共同で、そのルートをつくりアパレルが海外で成功できるような手助けをする。私にやれといわれればやってもよい。これが、“Tokyoショールーム戦略”の全体像である。 (文=河合拓/事業再生コンサルタント)

提供元・Business Journal

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