売らない店…ショールーム化する店舗

 円安の時代、あれだけ不調だといわれた百貨店が好調だという。聞けば、この円安によるインバウンド需要が爆速しているからだ。しかし、私はこの現象は一時的なものだと思う。為替だって、いつ円高に戻るかわからない。すべてが固定化されて動かなくなるなんてことはない。

 そこで、企業は可能な限り、企業内部にある「無駄、無理、無茶」の撤廃をすすめ、在庫の極小化、最適化を図っている。それが在庫の一元化であり、店頭から陳列以外の在庫をなくす方向だ。確かに、個客にとって「その日のうちに持って帰る」ことは、さほど重要ではない。せいぜい、翌日か数日内に到着してくれれば十分ということもある。そうすれば、店舗はショールームと化し、着こなしやコーデをチェックすれば、ポケットに入っているスマホでポチるだけで翌日に新品が自宅に届く。こういう時代がやってくる。いわゆる「売らないお店」だ。

 それでは、なぜ「在庫の一元化」は在庫の極小化に貢献するのだろうか。答えは簡単。店舗の評価を売上で見ているからだ。

 店長やエリアマネージャと呼ばれる人たちは、売上をできるだけ多く上げれば出世もするしボーナスも出る。そうなると、何より最初にやるのは、「在庫の確保」なのである。思い切った言い方をすると(実際はそんなことはないが)、「売れ残っても大丈夫。アウトレットにまわせば、彼らがうまくやってくれるだろう。自分たちは売れる在庫をとにかくたくさん確保しなければならない」ということになる。

 力のある店舗は実績が伴い、在庫の取り合いがあれば優良在庫は売れる店へと優先的に回され、ますます店舗の評価に明暗がつくのだ。このような力学が働く場で、それぞれのエリアなり店が独自に売る分だけの在庫を持ったらどうなるか。

 例えば、日本で500店舗持つアパレル企業があるとしよう。その1店舗、1店舗が在庫を積み増して発注するわけだから、日本全土でみれば恐ろしいほどの余剰在庫が積み上がることになる。これを一元管理して、FIFO (先に売った店が優先的に引き当てできるルール)で、総在庫の管理がシンプルになり余剰在庫も最小化されるわけだ。

 そうなると、次に心配なのは欠品による機会損失である。しかし、これは、LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)などのお店に行けばよくわかるが、店頭で接客用に見せる在庫(この在庫は売らない)はフルセット揃えておき、販売する在庫は倉庫に一元的に管理しておかれ、最初に販売した店から出荷されるルールにする。これが、「売らないお店」の基本コンセプトなのである。