上下院で交渉中の700億ドル規模の税制優遇

ブルームバーグの記事(米経済に想定外のインフレ圧力も、議会が優遇税制措置で合意なら)が話題になっていたので、交渉中の税制内容と進捗をチェックしてみる。

まず、交渉はどの段階かというと、上院財政委員会 Ron Wyden委員長(民主党)と下院歳入委員会 Jason Smith委員長(共和党)が中心となって一部メンバーで交渉している。まだ上下院の委員会での採決まで進んでいない。

ただ、上院財政委員会 Ron Wyden委員長(民主党)と下院歳入委員会 Jason Smith委員長(共和党) は1月11日に暫定合意(The tentative agreement )に達したと Roll Callは報道しているので、一気に進む可能性も残されている注5)。

次に、優遇税制措置で交渉されている内容だ。

話し合いに出てきているものは複数あるが、濃厚なのはこの3つだ。誤解をおそれずにいえば、共和党と民主党でそれぞれ最優先で実現したい優遇措置をもちよったといえるだろう。もちろん他の税制改正の話もでているが、今回は最も取り上げられている3つに絞ることにする。

① 子ども税額控除の拡充維持(Child Tax Credit ) 現行では16歳以下の子どもの税控除額は1人あたり最大$2,000。ただし、還付上限額が設定されており、 2024年は最大$1,700と設定されている。 納税額の少ない世帯はすべての税額控除を受け取ることができていない。

これを1年ごとに$100追加し、2025年には$2,000まで引き上げ、所得ゼロ世帯にも恩恵をうけられるような案がでている。

→そもそも2017年に可決したトランプ減税(Tax Cuts and Jobs Act)の時に税控除額が$2,000に上昇し、バイデン政権時の2021年にはThe American Rescue Plan Act により2021年度だけ0-5歳は$3,600、6-17歳は$3,000に引き上げられた。

それだけではない。2021年度は所得ゼロの世帯であっても、納税額にかかわらず税額控除が全額還付された。民主党としては恒久的な税控除を実現させたかったが失敗した。何もしないと2026年から$1,000に減少することになるし、所得が少ない世帯は恩恵を受けることができないままとなる注6)。

② 法人への税制優遇措置の復活(1) ボーナス減価償却 2027年には完全に廃止されるボーナス減価償却を継続させる案(2022年末まではボーナス減価償却は100%だったが、2024年には60%に削減。1年で20%ずつ減少していき2027年には消滅)

③ 法人への税制優遇措置の復活(2)研究開発費の損金算入復活 米国内の研究開発費に対して、発生時点での損金算入復活。 2022年度(2022年1月1日以降に開始した課税年度)以降は、原則5年の定額償却が義務付けられている注7)。

2024年の米国における納税申告開始は、1月29日に設定されている。

Wyden委員長(民主党) は、交渉期限は実質、1月29日より前だと考えているようだ注8)。

そもそもの内容が2017年トランプ減税で実施した法人税制の復活や維持なので共和党からは広く支持がでそうだし、子ども税控除増額は民主党から強く望まれているので多くの票が入りそうだ。しかしながら、年度予算もつなぎ予算を通そうとしている状況で議会が速やかに審議して採決できるかというとかなり微妙なところだろう。まずは 下院歳入委員会で可決するかが重要だろう。

【参考資料】

注1)CR Act 2024
注2)
注3)
注4)
注5)Roll Call | Chief tax writers working to broaden appeal of tentative accord
注6)CRS INSIGHT | The Child Tax Credit: What Lies Ahead?
注7)Bipartisan Policy Center | Congress is Running Out of Time to Fix a Critical R&D Tax Issue in 2023
注8)WSJ | Congress Explores Curbing Pandemic Tax Break in Bid for Last-Ditch Deal

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?