日本と海外の広告の違い

ーーー先ほどヨーロッパに滞在していたとおっしゃっていましたが、海外と日本の広告における違いはありますか?

国にもよりますが、日本の広告に1番近いと思うのは韓国かな。広告の量が多く、タレントをキャスティングし、ニコパチ(タレントがPRしたい商品を顔の横に寄せてニコッとした笑顔で撮影すること)といった表現が特徴です。

欧米では特に屋外広告で顕著なのですが、メディアとして売られている広告枠が日本ほど多くない印象があるので、そもそも広告の数が少なく、タレントを起用することも少ない印象があります。

出演者1つとっても、年代や人種も多様ですし、障がいをもつ人など、さまざまな人が登場します。対して日本の広告は、学生や若い女性がメインに映し出されることが多く、特にシニア女性はあまり目にしません。「若さ」「可愛さ」「弱さ」「無垢さ」のような要素が重視されやすいと思います。

ーーー具体的な各国の広告表現の特徴を教えてください。

広告規制の基準が各国で異なりますが、ヨーロッパではセンシティブな表現を含む広告は表示されません。

広告表現を研究している小林美香さんの著書『ジェンダー目線の広告観察』にも書いてあったのですが、英国では性別にもとづく有害なステレオタイプを助長するような広告は禁止されたようで、倫理的に問題があるとされた場合は警告されるらしいんですよ。

日本ではエロ漫画の広告を公共の場で目にしますが、私は1人で見るようなコンテンツを、誰もが目にすることのできる空間に出すのはおかしいと思っていて。日本は公共の空間における考えがまだ停滞しているように感じます。

広告業界に入りたい人へ

ーーー笛美さんが広告を制作する際に気をつけていることはありますか?

マーケティングとして消費者に刺さるか、クライアントの意向に沿っているかは常に考えています。

あとは、ジェンダーバイアスを助長するような表現は避け、たとえば子育てをするシーンがあれば女性だけではなく男性も、可能であれば異性愛カップルだけでなくセクシュアルマイノリティのカップルも起用したい。

ターゲットにもよりますが、幅広い属性がターゲットとなる商品などでは、取り残される人がいないよう、「男らしい」「女らしい」といった言葉を使わないなど、表現上の偏りをなくすよう意識しています。

あとは、広告に登場するタレントの人権が損なわれるような見せ方はしないよう、お客様だけでなく制作側にも配慮が必要です。ただ、現状の日本ではそれが必ずしもできるというわけではないので、難しいですね……。

ーーー今後、広告業界はよくなると思いますか?

広告業界自体が権威主義的で、権力をもった年長男性が決定権を握る構造があるので、すぐに流れが変わることはないと思っています。

会社にいる上層部の男性たちは、私のようなフェミニストが職場にいるなんて知らないと思いますが、意見をもつ女性がいることを身近に感じられたら少しは変わるかもしれません。なので、自分なりにできることを見つけて行動していきたいです。

ーーー広告業界を目指す就活生へアドバイスをください。

私の著書『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』には、この業界の実態について書いてあるので、入社前とのギャップをなくすという意味でもぜひ読んでいただきたいです。

ただ、絶望を感じる必要はありません。私みたいな人は社内にいると思うので、孤立せず同じような意見をもつ人たちと手を繋いでほしいなと。あとは、上の人たちは尊敬できる部分や経験はあるけれど、必ずしも正しいわけではないので、すべてを聞く必要はありません。

社会は私たちが作るものなので、その人たちに合わせるというよりは、少し距離をとって繋がっているくらいがいいのかなと。私はもともと自分の120%を捧げて仕事に専念していましたが、今は半分くらいの力で仕事と関わることで、自分を守ることができています。