電車やタクシー、街中など、至るところに散りばめられている広告。電通の「2022年 日本の広告費」によると、2022年における日本の広告費は過去最高の7兆円※超えであることがわかりました。
今後も私たちに影響を与えるであろう広告業界の一端を担う笛美さん。普段は一会社員として広告制作に携わるかたわら、フェミニスト(女性の権利運動から始まり、性別による差別を解消するための運動や主張「フェミニズム」の立場に立つ人)としてSNS上で発信しています。
消費者の価値観や行動を左右するといっても過言ではない広告の裏側とは何でしょうか。また、女性として広告業界で働く笛美さんが感じる「モヤモヤ」を打ち明けてくれました。
「“ふつう”に仕事して結婚して子どもを産むと思っていた」入社前後のギャップは?
ーーー笛美さんの活動内容を教えてください。
普段は広告業界で制作系の仕事をしながら、SNS上でフェミニズムや社会問題について発信しています。
初期はテレビやラジオのCM、といったオールドメディアをメインにやっていましたが、現在はデジタルやソーシャル系の制作を担当しています。
ーーー広告業界に入ったきっかけはありますか?
幼少期の90年代はテレビ全盛期だったのでテレビが身近にあったのですが、テレビCMで映し出される都心がキラキラしていて。
そんな都心の文化に憧れを抱き、ミーハーな気持ちで都内にある広告代理店に入社しました。この業界に入って約15年目になります。
ーーー入社前と入社後の広告業界におけるイメージのギャップはありましたか?
入社前は、女性がバリバリ働いて活躍できる業界だと思っていたので、仕事でうまくいかない人は甘えや逃げであり、私は結婚して子どもを産んだとしても絶対に働き続ける。そう思っていましたが、入社後にその考えは変わりました。日本では、第一子出産後に女性が離職する確率は半数以上という統計が出ています。
私の職場でも出産のタイミングで女性社員が辞めてしまうなど、パワーダウンすることが多いので、若い世代と男性しか生き残れない。男性がどんどん偉くなっていく現実を目の当たりにしました。
出典:内閣府男女共同参画局「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について
広告業界ひいては社会に立ちはだかる女性の障壁
ーーー就活中は違和感なく選考を進めていたのでしょうか?
会社にもよりますが私の場合、面接官から結婚や出産、パートナーについて質問されることは珍しいことではありませんでした。。
ですが、面接なのに仕事の質問には触れられず、プライベートなことを聞かれることについて、そのときは違和感を抱くことがなくて。
ーーー入社してから気づいたと。
そうですね。入社当初は憧れの業界にやっとたどりつけたというプライドがあったので、そこで成功すること以外考えられませんでした。しかし、実際には広告業界は男社会で、「女性は子育てをし、男性は働く」という価値観が充満しているんです。
独身の女性として過ごすと「女ではない」「モテない」というキャラにされることを感じたり、私は「女として男性から選ばれなければならないけれど、仕事やキャリアで成功するためにはあきらめなければならない」というジレンマに苦しめられていました。
ただ、家父長制(男性相続における家族制度において、一家の主人である男性が支配権をもつこと)にもとづく価値観に違和感を抱き始めたのは、入社後、インターンシップで某F国に滞在していたときです。
「女性の独り身は惨めだよ」「お前もそろそろ結婚しないとやばいよ」のような、日本で言われた女性軽視的な発言をF国で聞くことはほとんどありませんでした。その違いを感じたとき、初めて「あれ、おかしいぞ?」と思い、フェミニズムについて調べるようになりました。