今日はどの服を着て出かけるのか、昼休みに何を食べるのか、電車で移動中にスマホでどのニュース記事を読むのか……。すべての選択は自由であるが、ある科学者によれば我々には「自由意志」は存在しないという。いったいどういうことなのか――。
■「自由意志」は存在せずすべては決まっている!?
たとえばバッターとして打席に立てば、敬遠されない限りはピッチャーが投げてくるボールを毎球毎球、打つかどうか判断を下さなければならない。バットを振るのか、ボールを見送るのか、その判断は自分の自由意志で行っていると多くは思っているだろうが、本当にそうなのだろうか。
スタンフォード大学の神経生物学者、ロバート・サポルスキー氏の新著『Determined: A Science of Life Without Free Will』(2023年10月刊)は、“自由意志”が幻想であることを科学が示していると主張しメディアの注目を集めている。

自由意志がないという考えは「決定論(determinism)」ということになる。人間の意志、行為など普通は自由だと考えられているものも、実はすべて何らかの原因によってあらかじめ決められているという理論である。
決定論によれば、落とされた石が重力によって落ちると決まっているのと同じように、環境、生い立ち、ホルモン、遺伝子、文化、その他自分では制御できない無数の要因の直接の結果として、ニューロンは特定の方法で発火するように決まっているという。そして、これは、自分の選択がどれほど「自由」に見えるかに関係なく当てはまるのだとサポルスキー氏は解説している。
サポルスキー氏は我々の行動はこのようにして決定されるため、誰も自分の行動に対して道徳的な責任を負わないのだとも述べている。同氏は他人の安全を守るために殺人者を監禁することはできるが、厳密に言えば彼らは処罰されるに値しないと信じているのだ。
「The Conversation」に掲載された同著書評の筆者、豪ノートルダム大学の研究員であるアダム・ヨーバラキ氏によればこれはかなり過激な立場であるという。ヨーバラキ氏によれば因果関係で決定されることは自由意志を持つことや道徳的責任を持つことと両立するとする「互換主義(compatibilism)」の立場をとる哲学者が60%いる一方、このサポルスキー氏に同意する完全な決定論を支持する哲学者は11%しかいないということだ。
互換主義者たちは科学を理解できていないのだろうか? それともサポルスキー氏は自由意志を理解できなかったのだろうか?
