【最新モデル試乗】今度のメルセデスAMG・C63S EパフォーマンスはF1テクノロジーを傾注。究極の速さとドライビングプレジャーを手に入れた
(画像=メルセデスAMG・C63S・Eパフォーマンス/価格:9SATC 1660万円。新型は従来の4リッター・V8ツインターボから2リッター直4電動ターボ+モーターのPHEVモデルに進化。EV走行可能距離は15km、『CAR and DRIVER』より引用)

AMGに新時代到来! 伝統のV8から総出力680psのPHEVに大変身

JMS2023のタイミングで日本でも正式発売されたメルセデスAMG・C63・Eパフォーマンスは、メルセデスAMGの新時代到来を告げるニューモデルだ。その事実を端的に示すのが、伝統のV8エンジンに換えて最新の2リッター直列4気筒エンジンの搭載である。

「いやいや、それっていま流行のダウンサイジングでしょ?」とあなたはいうかもしれない。しかし、AMGがV8エンジンを諦めることと、他のメーカーがダウンサイジングに取り組むことの間には、その意義において根本的な違いがある。

1967年にハンス-ヴェルナー・アウフレヒトとエバハルト・メルヒャーによって設立されたAMGが世界的な注目を集めるきっかけとなったのは、1971年に開催されたスパ・フランコルシャン24時間レースだった。彼らが作り上げたAMGメルセデス300SEL6.8がクラス優勝/総合2位を見事に勝ち取ったのだ。このマシンに積まれたパワートレーンこそ、アウフレヒトとメルヒャーの手で排気量を6.8リッターまで拡大したV8エンジン。以来、珠玉のV8はAMGを象徴するエンジンとして君臨してきた。

【最新モデル試乗】今度のメルセデスAMG・C63S EパフォーマンスはF1テクノロジーを傾注。究極の速さとドライビングプレジャーを手に入れた
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)
【最新モデル試乗】今度のメルセデスAMG・C63S EパフォーマンスはF1テクノロジーを傾注。究極の速さとドライビングプレジャーを手に入れた
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)

それほど大切なV8を直4と入れ替えたのである。最大の理由は、地球温暖化を防ぐためにCO2排出量を削減することにあった。だが、ピンチをチャンスに一転させた点に、メルセデスAMGの情熱が雄弁に反映されているように思う。

システム構成を簡単に説明しよう。単体で476psを発揮する4気筒の電動ターボエンジンをフロントに搭載。これを、リアに積んだ最高出力204psの電気モーターと強固に連結したうえで、AMGパフォーマンス4MATIC+を介して4輪にトルク配分する。前輪をエンジン、後輪をモーターで駆動するPHEVなどとは異なり、4輪駆動系システムの許容範囲内でエンジンとモーターのトルクを自由に前後へと配分できる点が特徴であり魅力だ。
パフォーマンス重視のメルセデスAMGにとって、これは理想的なPHEV+4WDシステムといって間違いないだろう。

スポーツセダンとして理想的な重量配分。自在なハンドリングに心が躍った

新型C63S・Eパフォーマンスにスペインのアスカリ・サーキットで試乗するチャンスに恵まれたのは2022年末。そのときの感動は、いまでもはっきりと思い返すことができる。

まず、ノーズの動きが軽快かつ俊敏になった。フロントに積むエンジンが、それまでの巨大なV8からコンパクトな直4に切り替わったのだから当然のことだが、それだけではない。車体後部に前述のモーターに加えて容量6.1kWhの高圧バッテリー、さらにはこれらを制御するパワーコントロールユニットが搭載されたため、前後の重量バランスが限りなく50対50に近づいたのだろう。この結果、これまで以上にレスポンスが良好で正確なハンドリングを手に入れることに成功したのだ。

【最新モデル試乗】今度のメルセデスAMG・C63S EパフォーマンスはF1テクノロジーを傾注。究極の速さとドライビングプレジャーを手に入れた
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)
【最新モデル試乗】今度のメルセデスAMG・C63S EパフォーマンスはF1テクノロジーを傾注。究極の速さとドライビングプレジャーを手に入れた
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)

重量バランスの進化は、限界領域のハンドリングにも見逃せないメリットをもたらした。従来型のメルセデスC63Sはフロントヘビーだったゆえに、ノーズの反応がややダルだった。そのうえコーナリング中に後輪がスライドし始めると、グリップ回復に一定の時間を要した。しかし、前後バランスが改善された新型C63S・Eパフォーマンスは、テールスライドが起きてもカウンターステアで即座にリアのグリップを回復させることが可能。この違いは大きい。

さらにいえば、ステアリングとスロットルペダルの操作しだいでテールスライド状態を長引かせることも不可能ではない。つまり、限界コーナリング時のコントロール性が格段に向上したのである。

こうした特性を実現するうえで、電子制御式4WDやリアステアリングシステム、さらにはコーナリングの姿勢を制御する新世代のESC機構が貢献していることは間違いないだろう。

しかも、ドライビングモード切り替えで「レース」を選択すると、ブースト・モードが使用可能になる。これは、通常80%に抑えられたモーター出力を、一定時間内であれば100%にまで高める機構。サーキットでのラップタイムを短縮させるのに役立つ。同様の機能はF1マシンにも搭載されている。モータースポーツ・ファンにとってはたまらないシステムといえる。

【最新モデル試乗】今度のメルセデスAMG・C63S EパフォーマンスはF1テクノロジーを傾注。究極の速さとドライビングプレジャーを手に入れた
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)
【最新モデル試乗】今度のメルセデスAMG・C63S EパフォーマンスはF1テクノロジーを傾注。究極の速さとドライビングプレジャーを手に入れた
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)

サーキットでこれまでにない痛快な走りを披露してくれたC63S・Eパフォーマンスは、一般道でも進化が実感できる。従来モデルとは比べものにならないほど足回りの動きが柔軟になり、しなかやで快適な乗り心地を味わえるのだ。エンジン音にしても、ボリュームを抑えることで車内の静粛性は一段と向上していた。

エンジン音が静かになった新型を熱烈なAMGファンは残念に思われるかもしれない。だが、その音色は高音成分中心の精緻なもの。私にはむしろ魅力的に思えた。サーキットで一段とコントローラブルになり、一般道での洗練の度合いを大幅に高めた新世代AMGの誕生を、私は心から歓迎する。