■結婚できずに死んだ人を慰める冥婚

藤井:もう少し大人しいトーンのもので 「死絵」も日本独特のジャンルです。これは江戸時代に役者など著名人が死亡した際、訃報と追善を兼ねて摺られた浮世絵で、『錦絵にみる 役者への追悼 「死絵」の世界』(国立劇場)という国立劇場資料展示室での展覧会図録があります。死絵は浮世絵師の歌川国芳や歌川豊国なども描いており、美術館でも死絵はコレクションされています。

無残絵、生首版画、九相図……「死」にまつわる日本画の世界を徹底解説!
(画像=『TOCANA』より 引用)

――現在でいうところの「訃報」記事みたいな扱いだったのでしょうね。

――あと、日本の死というテーマで忘れてはいけないのが『増補 日本のミイラ仏』(臨川書店)という、「即身仏」にまつわる本ですね。日本でも即身仏は有名ですが、インターネットを見てみると海外でも人気があるそうですね。

無残絵、生首版画、九相図……「死」にまつわる日本画の世界を徹底解説!
(画像=『TOCANA』より 引用)

――お寺にある即身仏は通常は非公開・撮影禁止というものが多いため、貴重な資料ですね。

藤井:本書の面白いところが、例えば山形にあるミイラ化した男根に関する逸話ですね。即身仏になるために修行をしていた男性が、昔馴染んだ女郎から「結婚してくれ」と言い寄られたとき、自分のペニスを切り落として「私をあきらめろ」と、渡したものらしいです。以来、その女郎にたくさん客がつくようになって大儲けしたそうで、このペニスはいろんな人の手に渡り今ではこうしてまつられているという……。

――男根崇拝的な逸話つきの、霊験あらたかな男根なんですね。

藤井:男女に絡む話だと、東北地方で若くして死んだ者を供養するために絵馬の中に故人と架空の相手の婚礼の様子を描いた「ムカサリ絵馬」も興味深い。ムカサリ絵馬はしばしば生きている者と死者、もしくは死者同士の婚姻である冥婚と結び付けられて論じられてきました。本当は東北大学で行われていた「ムカサリ絵馬」の展覧会の図録を紹介したいんですが、どうしても入手できないため、今回は遠野市立博物館の『供養絵額 : 残された家族の願い』(遠野市立博物館)を紹介したいと思います。

無残絵、生首版画、九相図……「死」にまつわる日本画の世界を徹底解説!
(画像=『TOCANA』より 引用)

――冥婚もムカサリ絵馬も初めて知りました。

藤井:供養絵額はムカサリ絵馬ではないですが、死者のために、絵馬の中に宴などを描いて供養するというものですね。冥婚に関する本も3〜4冊程度あるのですが、絵が載っているものはあまりありません。

――冥婚というのは、いま時分なかなか興味深い儀式ですね。

藤井:最新の日本の死に関する本として、写真家の千賀健史氏の『The Suicide Boom』という444ページの写真集を紹介して今回は終わりましょう。本書は58冊限定で企画展中に販売されていました。「444」というページ数も然りなのですが、「58」というのは日本の1日の平均自殺者の人数に由来しています。写真だけではなく、三原山火口に女学生が飛び込んだのを機に起きた自殺ブームなど、自殺にまつわるさまざまな歴史も反映しています。

――「自殺ブーム」というまた知らない単語が……。まだまだ、勉強することはたくさんありそうですね。

書肆ゲンシシャ
大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515

伊藤綾
1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話うかがったり、イベントお邪魔したりするのが好き。サイゾーやSPA!、マイナビニュース、キャリコネニュース等で執筆中。友人や知らない人と毎月1日に映画を観る会(@tsuitachiii)を開催

文=伊藤綾

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

提供元・TOCANA

【関連記事】
初心者が投資を始めるなら、何がおすすめ?
航空機から撮影された「UFO動画」が公開される! “フェニックスの光”に似た奇妙な4つの発光体
有名百貨店・デパートどこの株主優待がおすすめ?
ネッシーは巨大ウナギではない! 統計的調査結果から数学者が正体を予測
積立NISAで月1万円を投資した場合の利益はいくらになる?