■生き血を使った「生首版画」
藤井:より手に入りやすい画集として2017年に刊行された『HELL 地獄-地獄をみる』(パイインターナショナル)という「地獄絵」の画集を紹介しましょう。地獄絵の画集はたくさんありますが、本書ほど分厚くて大判なもので、地獄絵が大きく載っている本はあまり見たことがありません。ちなみに、本書と同じシリーズで春画版『SHUNGA 春画』もあり、そちらも大判で見応えがあるのでおすすめです。さらにグロテスクなものが見たい方には『江戸昭和競作 無惨絵―英名二十八衆句』(リブロポート)がいいでしょう。

――「無惨絵」というのはなんなのでしょうか?
藤井:江戸時代末期から明治時代初期にかけて、世相が乱れた頃に残酷な殺戮の場面や死体を描いた無残絵という浮世絵が流行したんです。「血みどろ絵」とも呼ばれる、血がたくさん描かれたおどろおどろしい絵が人気になったんですね。浮世絵なのでそれなりの枚数摺られているのですが、無残絵は版画で10万〜20万円など、それなりにいい値段がしますね。
――そんな貴重な無残絵を画集でたくさん見られるということですね。
藤井:無残絵の画集自体もかなり珍しくて、本書はマンガ家の丸尾末広氏や花輪和一氏が手がけた無残絵や、江戸時代に月岡芳年と落合芳幾が描いた有名な「英名二十八衆句」が載っています。妊婦を吊るしたり、皮を剥いだりなど、かなりグロテスクな表現ですね。
――その頃から「そういった趣味」の人向けのコンテンツはあったんですね。
藤井:ちなみに、本書には復刻版もあるのですが、そちらには丸尾氏・花輪氏の手がけた作品しか載っていないので、オリジナル版がオススメです。
――復刻に際してなにかあったのでしょうか……。
藤井:さぁ……。次に「現代の無残絵」ともいえよう、『生首図聚 三代目彫よし』(日本出版社)という立派な箱入りの画集を紹介しましょう。本書は「三代目彫よし」という刺青師の作品が掲載されており、Amazonでは20万円近くするレア本です。テキストもなかなか充実しているのですが、本書のポイントは版画が1枚ずつ入っているので、額装して家に飾ることができるということです。

――この連載ではおなじみの、どこに飾ったらいいかがわからないシリーズですね。
藤井:本書に掲載されている生首の血に関しては、三代目彫よし氏が自分の血を使って描いているらしいです。ちなみに、刺青の世界では髑髏や死神などの絵柄を彫る人が結構いるそうですね。死に関するモチーフを彫ることで、死を乗り越えたことのシンボルとしたり、誰であれ死は平等に訪れることを表したりするそうです。
――むしろ、死を引き寄せにいっている気もしますが、威嚇効果はありそうですね。