中古車市場全体への影響

そんなビッグモーターの店舗で、前述のように売り物である中古車がない店舗が出てきているが、どのような理由が考えられるのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。

「実はすでに店頭に販売在庫が1台もないというビッグモーターの店舗が各地で複数確認されています。これらの店舗には、修理の際に顧客へ出される代車だけが残されており、在庫はまったく見られないという状況です。同社のように大型の中古車販売店は、在庫を保管するヤードが各地にあり、すべての在庫が店頭に展示されているというわけではありません。ですから、現状でビッグモーター全社の在庫がどこにどれくらい残っていて、今回の騒動後にどれだけ現金化されているのかはわかりませんが、ここしばらくの状況を鑑みると、損切りをしてでも在庫を現金化しているであろうことは予測できます。

抱えている中古車を現金化していく手段としては、主にオートオークションで競りにかけて売りさばく方法と、同業他社への業販が考えられると思います。ビッグモーターの子会社であるオークション運営会社MIRIVE(ミライブ)は、ビッグモーターに吸収合併されたハナテン時代から続く大阪・松原の会場のほか、埼玉、愛知に大型の会場を有し、なかでも埼玉の会場は成約台数をここ数年で大きく伸ばしており、北関東エリアの中古車流通における要所となっています。ビッグモーターはこうした会場で買取り車両や売れ残った在庫車両を競りにかけ、大きな値崩れを起こさないように相場をつくってきたという実績があります。これらの会場は、当然ながら一般的なオークション会場に比べ自社物件の落札価格を操作しやすく、売る側として優位に立てるため、まずはこの3会場で競りにかけられるのではないでしょうか」

では、ビッグモーターが在庫の中古車を大量に市場に放出することによって、中古車市場全体の値崩れが発生するような可能性はあるのか。

「具体的な数字のデータとしては、全国で120カ所以上あるオートオークション会場での出品台数を比較すると、昨年の1~8月までのオートオークション出品が約285万5500台であったのに対し、今年の1月~8月の出品は約306万8000台で、劇的に流通量が増えているわけではなさそうです。また成約台数を見ると、昨年度が月平均約55万5000台に対し、今年度は約45万7630台と、むしろ少ない傾向にあります。ただ、平均落札相場は前年比で約10%下落しており、今後の不安定な値動きも懸念されています。

こうした現状において、ビッグモーターの中古車が大量放出された際の市場への影響は、予測が難しい面はあるものの、品質面における疑義や不信感、風評的なニュアンスも含め、一時的な相場の下落が避けられない可能性はあります。ただ、常識的な商売をやっている中古車販売店では、仕入れた車両をそのまま販売するわけではなく、しっかりと点検整備を行って安心安全に走れる中古車を販売するわけですから、今後しばらく中古車を買うのは怖いなんていう考えは、持つべきではないでしょう。むしろ、安く流通している時期は販売価格も相応に抑えられるため、値頃感のある中古車が増えるという見方もできるのではないでしょうか。少なくとも、真っ当なビジネスを続けてきた中古車販売店は、業界の信頼回復のために以前にも増して、仕入れ車両の品質改善などを徹底するでしょうから」(同)

ビッグモーターは当サイトの取材に対し、以下の回答を寄せた。

「既定の在庫台数に基づいて在庫管理を行っています。買い取った車両の一定割合を、オークションを通じて販売することは、従来通り行っておりますが、経営継続のための資金確保などを目的として、大量に在庫車両を別の業者等に一斉に売却するという計画は御座いません」

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)

提供元・Business Journal

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