自動車保険の保険金水増し請求問題に揺れる中古車販売大手ビッグモーターで、商品である中古車の在庫がほとんどなく屋外の駐車スペースが「ガラ空き」の店舗が出始めている。同社は今月、銀行団から借入金90億円の借り換えに応じない旨を伝えられて、資金繰り悪化への懸念が高まっており、資金確保のために在庫の中古車をオークションへ出品したり別の業者に売却しているのではないかという見方も広まっている。不祥事を受けて一般顧客への販売が急減するなか、商品在庫を手放さなければならないほど同社は追い込まれているのだろうか――。

昨年に不正が発覚して以降、沈黙を守っていたビッグモーター経営陣は先月25日、騒動後初となる会見を実施。それから1カ月が経過しようとしているが、同社内で行われていた不正行為に関する報道はあとを絶たない。

たとえば、店舗の営業担当者が顧客にローンの仮審査だと説明しながら、勝手に信販会社の本契約を進め、顧客が慌てて解除すると担当者が顧客の自宅に押し掛け、2時間にわたり暴言を浴びせるということも行われていたことが発覚(3日付け読売オンライン記事より)。以前から指摘されていた、税金で整備された店舗前の街路樹に除草剤をまいて枯らしている疑惑については、会見で和泉伸二社長は「かれこれ10年くらい前の話」と説明していたが、一部店舗で現在も行われていたことを認めた。川崎店では本社の指示に基づき、社員が店舗前の街路樹のツツジを市に無断で伐採していたことも明らかになっている。

さらに、車の購入者が代金の約100万円を現金で支払おうとしたところ、店舗の営業担当者から総支払額は変わらないので1年だけローンを組むよう説得され、結果的に120万円を支払う羽目になったり、新品タイヤなど30万円相当のオプションを無償で付けるのでローンを組むよう言われた客が、約束を反故にされオプション分を有償で契約させられたケースも(11日付「AUTOCAR JAPAN」記事より)。ビッグモーターに売却した車について冠水した過去はないにもかかわらず、冠水した跡があるとして突然700万円の賠償請求訴訟を起こされたり、店舗で売却のキャンセルを告げると店長から罵声を浴びせられるようなケースもあったという(11日付「弁護士ドットコムニュース」記事より)。このほかにも、中古車の一括査定サイトでは、登録した顧客のメールアドレスや電話番号などを入手し、その顧客になりすまして勝手に登録を解除する一方で顧客に接触し、他の中古車買取業者との価格競争を回避する「他社切り」という行為まで横行していたという(9日付「FNN」記事より)。

対応に追われる損保業界

「街路樹の除草剤の件について経営陣は先月25日の会見で否定したものの、その3日後には一転して事実を認めるなど、平気で嘘を言ったり顧客を恫喝したり、違法行為を行う企業体質が染み込んでいる。中身は腐りきっているが、全国の店舗網や工場、中古車などの設備・資産はそれなりに魅力的なので、他社による買収とブランド変更によって倒産は逃れられるという見方が強い。もっとも、その場合は経営陣の刷新と大幅な人員削減、そして資産管理会社を通じてビッグモーターの株式を100%保持する兼重宏行前社長と息子の兼重宏一が株を手放して完全に会社から離れることが絶対条件になってくる」(全国紙記者)

不祥事の影響は他業界にも広まっている。大手損害保険会社の損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険はビッグモーターと自動車保険の代理店契約を結び、ビッグモーター店舗を通じて自動車保険を販売していたが、3社ともに契約終了を決定。3社は自動車事故を起こした保険契約者をビッグモーターの修理工場へ仲介していたが、ビッグモーターによる修理費の水増し請求によって自動車保険を使うことで等級が下がり、保険料が上がった契約者もいる。三井住友は過去の事故車両を検証し、契約者の等級を訂正する方針を示しており、他の損保会社も追随する可能性もある。

「損保会社が保険の等級を一斉に見直すというのは前例がない。等級の決定は複雑で細かい作業であり、一つひとつの契約について過去に遡って見直すのは損保会社にとっては多大な労力を要して手間がかかるため、やりたくないというのが本音だろう。等級が1つ下がれば年間の保険料が1万円以上、3つ下がれば2万円近く上がるため、10年だと10~20万円の損を契約者が被ることになる。ビッグモーターの悪事がどれだけ酷いものかを物語っている」(同)