米国のインフレ抑制法という追い風
先行きは楽観できないが、パナソニックがCATLとのシェアを縮め、世界トップのバッテリーメーカーとしての地位回復を目指す可能性は高まっている。マツダとの関係強化などに加え、事業環境の変化も大きい。2022年8月、米国でインフレ抑制法が成立した。それによって、EVなどを購入する消費者への税額控除などが行われる。2022年度決算説明資料でパナソニックは、インフレ抑制法により2023年度の調整後営業利益は800億円程度押し上げられるとの予想を示した。補助金政策などの恩恵は大きいと期待される。
また、米国など主要先進国で、経済安全保障の点で懸念高まる中国の企業ではなく、同盟国などの企業から車載用など大容量のバッテリー調達を目指す企業が増える可能性も高い。台湾問題の緊迫感の高まりなど地政学リスクへの対応のためにも、サプライチェーンの多様化は主要先進国の企業にとって喫緊の課題だ。そうした変化もパナソニックに追い風だ。そうした環境変化によりよく対応すべく、2024年4~9月期にパナソニックは当初の計画よりも容量を拡大した新しい円筒形バッテリー「4680」の量産を開始する予定だ。国内の研究開発、生産体制は強化される。米国ではカンザス州で工場の建設が開始された。オクラホマ州でも工場の建設が検討されていると報じられた。
これまで、パナソニックは家電、供給網管理などのソフトウェア、バッテリーなど事業領域を広げた。ただ、自社の強みがどの領域にあり、どのように業績の持続的拡大を実現するか、成長戦略を明確化することは難しかった。それだけ、バブル崩壊後、「羹に懲りてなますを吹く」というべきリスク回避の心理は強固だったと考えられる。
現在、パナソニックはその状態からの脱却を急いでいる。車載用のバッテリー事業へ選択と集中を進め、蓄電池分野で収益拡大を狙う方針は明確だ。経済産業省が半導体に加え、大容量の蓄電池分野で補助金を強化していることも、パナソニックの前向きな経営姿勢、先端分野でのリスクテイクを支えるだろう。今後、パナソニックはより大規模かつ迅速に、バッテリーなど成長期待の高い分野へ経営資源を再配分しなければならない。そのために、家電など既存分野でコストカットや構造改革が加速する可能性は高い。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)
提供元・Business Journal
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