類似のケースは増加する可能性
JSRのように、投資ファンドの傘下に入り、意思決定のスピードを引き上げて成長加速を狙う日本の企業は増えそうだ。今回の買収は、かつてのエルピーダメモリのような収益力が低下した企業の救済と異なる。現在、極端紫外線(EUV)に対応した感光材領域、ライフサイエンス分野でJSRの収益は増えている。
ただ、JSRを取り巻く事業環境は徐々に不安定化するだろう。特に、米欧では物価が高止まりし、金融引き締めは長引きそうだ。金利は上昇し、今すぐではないにせよ世界的に株価は下落するだろう。日本の株価もかなり高く見える。展開次第でJSRの業績が不安定化する恐れは否定できない。そうなる前にJSRは投資ファンドの傘下に入り、より迅速に選択と集中を進めたいはずだ。特に、株価が下落した場面はコストを抑えて競合他社を買収し、シェアを拡大する重要な機会になりうる。そのために必要な成長戦略の策定、資金調達などを強化するためにも、投資ファンドのノウハウを活用する意義は大きいだろう。
それによってJSRは業界再編を主導して自社の競争優位性を高め、収益性をさらに引き上げようとしている。それが実現すれはJSRの成長期待は高まる。そうした成果を実現しつつ、JSRは世界の株式市場が上昇する局面をとらえて再上場を目指すだろう。問われるのは、買収が成立した後に、JSRの改革が本当に加速するか否かだ。
企業が成長を実現するために、常に上場会社であることが最善の方策とは限らない。日本で事業運営体制の変革が遅れ、成長期待が高まりづらい企業は多い。今すぐではないにせよ、内外の株価が下落すれば、株主との利害調整に難航する企業も増えるだろう。JSRの発表をきっかけに、高い成長を実現して長期存続を目指すために投資ファンドによる買収を検討する企業は増える可能性が高い。そうした変化が日本の経済成長と安全保障体制の強化につながるためにも、JSR、JIC両社がどのような成長戦略を策定し、実行するかが問われる。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)
提供元・Business Journal
【関連記事】
・初心者が投資を始めるなら、何がおすすめ?
・地元住民も疑問…西八王子、本当に住みやすい街1位の謎 家賃も葛飾区と同程度
・有名百貨店・デパートどこの株主優待がおすすめ?
・現役東大生に聞いた「受験直前の過ごし方」…勉強法、体調管理、メンタル管理
・積立NISAで月1万円を投資した場合の利益はいくらになる?