次に、64歳以下の群のグラフです。

64歳以下ではリスク期間の性比が有意に高いという逆の結果となりました。リスク期間の性比が高くなった理由は、若年者では男性の心筋炎による死亡が多いことが理由の一つと考えられます。

性比比較の手法による結果は、決定的なエビデンスとはなりませんが、関連性を強く示唆するエビデンスの一つにはなります。報告バイアスを極力排除してデータを収集し、SCRIデザインにより更なる解析を実施することが望まれます。

性比を比較する手法は、SCRIデザイン(self-controlled risk interval design)より派生した統計手法であると、私は考えています。どちらの手法も、有害事象が偶発的に発生したか否かを調べる手法です。

コホート研究には、死亡発生率が低い時には有意差が生じにくくなるという欠点があります。 一方、性比を比較する手法やSCRIデザインでは、死亡発生率が低い場合でも関連性があれば有意差が認められる場合が多いと考えられます。

コホート研究で有意差が認められなければ、ワクチンは安全とされ、ワクチン接種が中止されることはありません。しかし、これは有意差が生じるほど死亡や重篤な副反応の発生率が高くないことを意味しているだけであり、「ワクチンと死亡や副反応との因果関係がない」ことを意味しているわけではありません。

ワクチンは健常者を含めたすべての人が接種対象となりますので、ワクチンによる死亡発生率は、非常に低い値であることが求められます。したがって、死亡発生率が非常に低い場合には有意差を検出できないコホート研究のみで、ワクチンの安全性を評価することは検証として不十分です。性差比較やSCRIデザインによる解析も実施した上で、ワクチンの安全性は評価されるべきと私は考えます。

以前の論考で指摘しましたが、救済制度では原因不明の突然死も多数認定されています。しかし、原因不明の場合に、単に接種後数日以内に死亡したという理由のみで救済認定することは、科学的な根拠のある認定とは言えません。このような場合に、性差比較やSCRI解析は、救済認定に科学的根拠を与えると私は考えます。

日本においてのワクチンの安全性を海外で公表されたデータで判断するべきではない

海外データを持ち出して日本においてのワクチンの安全性を主張する人がいます。これは科学的に正しい主張とは私は思いません。何故ならば国間のバイアスの存在を無視した主張であるからです。

日本では接種後死亡は高齢者に多く発生しています。日本は少子高齢化が世界で最もすすんだ国の一つであり、そして日本の高齢者は貧富に関係なく手厚い治療を受けています。したがって、日本の高齢者が置かれている医療環境は世界から見てかなり特殊な医療環境と言えます。つまり、これが大きなバイアスとなっています。この国間のバイアスを補正せずに高齢者の死亡を論じることは科学的とは言えません。

Yamashita氏らの論文では、性比の経時的変動は日本でのみ認められ、米国や欧州では認められなかったと報告しています。したがって、ワクチンと死亡との関連性は、欧米では認められなくても、日本でのみ認められる可能性があります。

海外データは参考にすることはできます。しかし、それが日本にも当てはまる保証はありません。適切に日本のデータが収集されて、適切な手法で解析が成されるべきです。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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