柏が活かしたかった好機
試合全体を通じて柏の[4-4-2]の守備ブロックは強固で、最前線、中盤、最終ラインの3列の距離感もコンパクトに保たれていたが、それだけに前半23分に訪れたカウンター発動のチャンスを活かしたかった。
ここでは川崎Fのパス回しを敵陣左サイド(川崎Fにとっての自陣右サイド)へ追いやり、左サイドハーフとして先発したMFマテウス・サヴィオが山根にプレスをかける。縦のパスコースを塞がれた山根は、自身の左隣に立っていた橘田へパスを出した。
山根のパスを受けた橘田に、柏のFW細谷がプレスをかけてボール奪取を試みたが、後方から橘田を躓かせたためファウルと見なされてしまう。連動性溢れるプレスで川崎Fのパス回しを片方のサイドへ追いやったうえ、山根の横パスに対する細谷の反応も素晴らしかっただけに、ファウル無しでボールを奪いきり速攻に繋げたかった。
今回のように拮抗した試合では、こうした細部が勝負の分かれ目となる。ファウル無しでボールを奪いきる。これが細谷の伸び代のひとつだろう。
川崎Fは国内屈指の万能型チームに
ジョゼップ・グアルディオラ監督時代のバルセロナを彷彿とさせる流麗なパスサッカーで、Jリーグを彩ってきた川崎F。風間八宏前監督時代からの強みである精巧なパスワークはそのままに、2017シーズンより指揮を執る鬼木監督のもとで、あらゆる試合展開に対応できる万能型チームへと変貌。同年のJ1リーグ制覇を皮切りに、多くのタイトルを手にしてきた。
鬼木体制下で培われた川崎Fのこの特長は、今回の天皇杯決勝でも発揮されることに。試合開始の笛とともに柏にロングボールを放り込まれ、その後も柏のハイプレスや速攻を浴びたが、先述の通りこれを凌いでみせた。
攻撃面では自陣後方からの丁寧なパス回し(遅攻)と、相手最終ラインの背後をダイレクトに狙う速攻。守備面では相手最終ラインを強襲するハイプレスと、自陣や中盤への撤退。今回の天皇杯決勝のような劣勢の試合でも、これらを相手の出方に応じて選び、勝機を見出していく。
このしたたか且つオールマイティーな戦いぶりは、まるで1990年代後半から2000年代前半にかけて数多の国内タイトルを勝ち取り、2007年から2009年にかけてJ1リーグ3連覇を成し遂げた鹿島アントラーズのようだった。