
死の瞬間に我々の肉体に何が起こっているのか。4人の死にゆく患者の脳活動をモニターした科学者が見つけたものとは――。
死にゆく4人の脳活動をモニター
ベットの上で静かに死んでいくケースにおいて、生と死を分かつ瞬間に何が起こっているのだろうか。
心肺停止では意識が喪失していることから、人が死ぬと脳の活動が低下すると考えられる。しかしその一方で、死の淵から生還した人々の中には、臨床的な死の最中に非常に明晰な“ビジョン”を見たという証言を行う人々がいる。いわゆる“臨死体験”だ。
とすれば、臨床的な死の直後において精神的な活動はむしろ活発になっているのだろうか。10年前、米ミシガン大学のジモ・ボルジギン氏率いる研究チームは、致死的な心停止直後のラットの脳内で一時的な電気活動の急増を確認した。
そして今回、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表されたばかりの追跡研究では、ラットの脳と同様の活動パターンが死につつある人間の脳でも起こっていることが示されている。
この研究はミシガン大学病院の神経集中治療室で死亡した4人の昏睡状態の患者を対象に実施されたが、全員が2014年に心停止により広範な脳損傷を受け、生命維持装置を施されていた。
ボルジギン氏らは患者の死亡の瞬間、人工呼吸器のスイッチを切る前後で、これら4人の患者の脳波検査(EEG)データを分析した。

生命維持装置の解除から数秒以内に、患者のうち2人は、局所レベルと全体レベルの両方で、いくつかの異なる脳波「帯域」の変化を特徴とする神経生理学的活動の急増を示した。高周波ガンマ波(注意と知覚に関連)と低周波ベータ波(集中力と集中に関連)が大きくなり、複数の脳領域でより緊密に結合するようになったのだ。さらに、脳の両半球の異なる領域内の異なる周波数の脳波も、互いにより同期するようになった。
重要なのは、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の接合部にあるいくつかの領域で構成されている脳の後方に向かう、いわゆる“ホットゾーン”内の複数の周波数帯域で機能的接続が一時的に増加した形跡があることだ。意識的な処理に重要であると考えられているこのホットゾーンと前頭葉の一部との間の接続性も増加したのである。
臨死状態における高周波神経生理学的活動は、意識のある覚醒状態で見られるレベルを超えており、哺乳類の脳が臨死時の意識処理の亢進に関連する神経系を生成できることが実証されたのだ。
ちなみに、2002年に米・ウィスコンシン大学マディソン校において瞑想熟練者の脳波が測定された際には、チベット仏教の高僧であるミンギュル・リンポチェのガンマ派のレベルが、瞑想状態に入って数秒のうちにそれまでの7~8倍に跳ね上がり、研究者を驚かせたことがある。死に際して脳波の活動が活発化することと、瞑想状態の脳派にもなんらかの関係性があるのかもしれない。