オランダでは「GTA」の発売後に犯罪率が減少

二つ目は、オランダのWODC(Research and Documentation Centre)が2017年に発表した研究です(European Journal of Criminology, 2017)。

ここで研究チームは、CoDと双璧をなす暴力ゲーム『グランド・セフト・オート5(GTA5)』を対象としました。

GTAシリーズは、プレイヤー自身が街を自由に徘徊しながらギャングの犯罪に加担したり、市民や警官に暴行したりできるR指定のゲームで、「グラセフ」の愛称でお馴染みです。

調査では、GTA5のリリース(2013年10月)とオランダ国内の青少年犯罪率との関連性を比べました。

青少年犯罪率は、12〜18歳および18〜25歳の2つの年齢層で犯罪登録数が2012〜2015年の間にどれだけ変化したかを調べています。

その結果、アメリカの研究と同じように、2013年のGTA5リリース後の数カ月間で12〜25歳の青少年の犯罪件数が明らかに減少していることが確認できたのです。

こちらも因果関係を説明するものではありませんが、暴力ゲームの発売と犯罪数の減少には強い関連性があると思われます。

GTA5リリース後に青少年の犯罪率が低下
GTA5リリース後に青少年の犯罪率が低下 / Credit: canva

これについて、先のパトリック・マーキー氏は「潜在的に犯罪をする危険性のある人々は、ゲームという仮想場の中で暴力を楽しみ、そこでカタルシスを得ることで、現実世界で実際に暴力を振るうことが抑制されている可能性が高い」と指摘しました。

また米ペンシルベニア大学ウォートン校の経営学教授であるイーサン・モリック(Ethan Mollick)氏はこの結果を受けて、X(旧Twitter)でこう述べています。

「GTAがリリースされると、潜在的な犯罪者がゲームをするために屋内に留まるので、暴力と犯罪は実際に減少します。

(これは他の暴力的なゲームにも当てはまるので、残念ながら、毎年のCoDリリースは実際には世のためになっているのです)」

これらの研究は調査対象とした年齢や性別、または犯罪の種類に限界があるため、暴力ゲームの発売が全ての年齢層および全ての犯罪に対して、抑止力を持つとは言えません。

それでも研究者らは、暴力ゲームの発売とある種の犯罪率の低下にはとても強固な関連性が見られるため、一時的にせよ重犯罪を減らす効果が期待できると考えています。

何かと毛嫌いされがちな暴力ゲームは、多少なりとも世界平和に貢献しているのかもしれません。

暴力的なゲームは「人間を攻撃的にしない」 独研究所

参考文献

GTA fans, rejoice: When violent video games are released, the crime rate drops

Do violent video games actually reduce real-world crime?

元論文

Violent video games and real-world violence: Rhetoric versus data

(2014)

The release of Grand Theft Auto V and registered juvenile crime in the Netherlands

(2017)

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。