もちろん、「宗教2世」も成長していく中で、新たな人生の目的を見出し、親の信仰から離れていくケースも見られる。その場合でも、親の宗教(団体)というより、親の宗教心(信仰姿勢)が決定的な影響を与えるのではないか。

人類の歴史で数多くの宗教が生まれ、また消滅していったが、「世界宗教」と呼ばれるキリスト教やイスラム教は創設者の教えを世界に広げていった。ただ、キリスト教でも300以上のグループに分かれていったように、宗教(団体、教会、寺院)も時代の流れの中で変遷していった。そのようなプロセスの中でも人間が生来有する宗教心は続いてきたわけだ。極端にいえば、教会が消滅したとしても、人間が持つ宗教心は消滅することなく続いているのだ。

人間の持つ宗教心を根絶しようとして唯物主義的共産主義が誕生し、「宗教はアヘン」として国民から宗教を撲滅しようとした歴史があった。その結果、宗教団体、組織は一部、解体され、消滅しても、国民の宗教心までは抹殺できなかったことは歴史が端的に示してきた。

例を挙げる。アルバニアはバルカン半島の南西部に位置し、人口300万人弱の小国だ。冷戦時代、同国のエンヴェル・ホッジャ労働党政権(共産党政権)は1967年、世界で初めて「無神論国家宣言」を表明したことから、同国の名前は世界の近代史に刻印されることになった。

ホッジャ政権下で収容所に25年間監禁されてきたローマ・カトリック教会のゼフ・プルミー神父と会見したことがあるが、同国では民主化後、多くの若者たちが宗教に強い関心を示してきているのだ。ホッジャ政権は教会を破壊し、聖職者を牢獄に入れることは出来たが、国民の中にある宗教心を完全に抹殺することはできなかったのだ。アルバニア国民はその宗教心を「アルバニア教」と呼んでいる(「『アルバニア教』の神髄語った大統領」2021年5月4日参考)。

中国の習近平国家主席は、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなければならない。外部からの影響を退けなければならない」と強調する一方、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告している。具体的には、キリスト教、イスラム教など世界宗教に所属する信者たちには「同化政策による中国化」を進めている。にもかかわらず、中国人の宗教熱は冷えていない。非公式統計だが、中国人の宗教人口は中国共産党員をはるかに凌いでいる。

1990年代後半に入ると、李洪志氏が創設した中国伝統修練法の気功集団「法輪功」の会員が中国国内で急増し、1999年の段階で1億人を超え、その数は共産党員数を上回っていった。それに危機感をもった中国第5代国家主席の江沢民氏(当時・在任1993年3月~2003年3月)は1999年、法輪功を壊滅する目的で「610弁公室」を創設した。「610弁公室」は旧ソ連時代のKGB(国家保安委員会)のような組織で、共産党員が減少する一方、メンバー数が急増してきた法輪功の台頭を恐れた江主席の鶴の一声で作られた組織だ。

最後に、宗教心とは何だろうか。明らかな点は程度の差こそあれ、誰でも宗教心を持っていることだ。その中には、人知を超えた存在(?)への畏敬心も含まれるだろう。人は誰でも幸せを願っている。そしてより良い人間になりたい、という消すことが出来ない願望がある。

イエスの言葉を借りるならば、人はパンのみで生きているのではない。そして誰から言われなくても、何が善であり、何が悪いかを理解している。だから、世界宗教といわれる宗教の教えはよく似ている。人を殺すなかれ、姦淫するなかれ、といった戒めはどの高等宗教も教えていることだ。

宗教団体が時の為政者から弾圧されたとしても、また、宗教団体が内部から腐敗・堕落していったとしても、人間の本来の宗教心は消えることがない。ローマ帝国の皇帝ネロ(在位54~68年)はキリスト教を徹底的に弾圧したが、そのキリスト教が西暦392年、ローマ帝国の国教となることを防ぐことは出来なかった。宗教心は弾圧さればされるほど燃え上がることを多くの独裁者は理解していないのだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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