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ウクライナ、NATO軍の教官に軍事医療伝授 戦地の経験、訓練に反映
日経にしては珍しいコンバットメディックの良記事です。
と思ったら、現地人記者の記事の再構成でした。まあ載らないより載ったほうがいいのですが。こういう取材をしてみようという記者は日経や記者クラブにはいないでしょう。
この記事はキーウ在住のフリージャーナリスト、ワジム・ペトラシュク氏の取材を基に編集しました。
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、消耗戦の様相を強めている。勝敗の行方は、いかに人的損失を抑えられるかにかかる。ウクライナ軍に前線での治療を訓練している同国の非政府組織「パルス(PULSE)」の活動が広がっている。
10月中旬、エストニアの第2都市タルトゥにある軍事アカデミーでパルスが実施した訓練風景だ。負傷した兵士は精巧に作られた等身大の人形で、訓練には同国軍の医療スタッフら約50人が参加した。
実地訓練では骨盤の骨折、上部気管支のやけどと手足の大量出血、首と顔の損傷といった重傷の事態を想定した。遠方の病院に運ぶ時間はない。負傷直後の治療が、兵士を救う。機関銃などが配備された訓練場には、戦場さながらの緊張感が漂った。
バルト諸国のエストニアは米欧中心の集団防衛機構、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国だ。
だが、軍事医療では逆にNATOに教える側に立った。国境を接するロシアの軍事的な脅威をつねに意識するエストニアでの訓練が初の事例となった。
過去何十年も、欧米の軍隊が関与してきたのはテロリストや戦力的には圧倒的に格下の相手との戦いだった。一方、ウクライナはロシア軍と激しい砲撃戦を続ける。その前線で負傷する兵士の命をどうやって救うか、戦地で真の経験を積んできた。
訓練に参加したエストニア軍将校のバルテル・ボーメツ氏もパルスの活動を高く評価する。「パルスには戦場で手にした新しい経験がある。彼らの訓練を受ければ、将来、エストニアが戦争に巻き込まれた場合に備えられる」と語った。
パルスは2014年にウクライナ東部でロシアの軍事介入により紛争が起きた直後に創設された。ウクライナ軍に協力し、「戦術医療」と呼ぶ戦地での救急医療を訓練してきた。特に22年2月の軍事侵攻以降、訓練を受けた軍関係者の数は1万9千人を超えた。
「訓練の実施中に不安な様子は見せるな、すぐに受講者に伝わるぞ」。パルスの教官が兵士たちに厳しい注意を与えた。この日に受講した兵士たちは間もなく戦地に向かい、今度は自分たちが教官となって、他の兵士に戦術医療の訓練を行うのだという。