「ハマスはイスラム教徒ではない」という同氏の発言を聞いて、フランスのパリでイスラム過激派テロリストの3人が仏週刊紙シャルリーエブド本社とユダヤ系商店を襲撃したテロ事件について、同国の穏健なイスラム法学者がジャーナリストの質問に答え、「テロリストは本当のイスラム教信者ではない。イスラム教はテロとは全く無関係だ」と強調したことを思い出した(「“本当”のイスラム教はどこに?」2015年1月24日参考)。
参考までに、著名な神学者ヤン・アスマン教授は、「唯一の神への信仰(Monotheismus)には潜在的な暴力性が内包されている。絶対的な唯一の神を信じる者は他の唯一神教を信じる者を容認できない。そこで暴力で打ち負かそうとする」と説明し、実例として「イスラム教過激派テロ」を挙げている。すなわち、イスラム教とテロは決して無関係ではないというのだ(「『妬む神』を拝する唯一神教の問題点」2014年8月12日参考)。
同教授の主張からいえば、ハマスは単なる過激派テログループではなく、イスラム派過激テロリストの集団ということになる。
ダン氏は多分、ハマスの残虐なテロ行為を目撃し、計り知れないショックと衝撃を受けたのだろう。だから、「ハマスはイスラム教徒ではない」という発言が飛び出したわけだ。
ところで、強制収容所から生還したオーストリア人の心理学者ヴィクトール・フランクル(1905~97年)は、「収容所では苦しむユダヤ人を助けていた兵士がいた」と述べ、「ナチス・ドイツ軍の中にも善意のある人間はいた」と主張、「集団的罪責」を否定し、ユダヤ人社会からもブーイングを受けたことがあった。
当たり前のことだが、イスラム教徒にもキリスト信者の中にもいい人間と悪い人間がいる。ユダヤ人は悪い(反ユダヤ主義)、イスラム教徒は悪い(イスラムフォビア=イスラム嫌悪)と安易にレッテルを貼るのは危険だ。ただし、テロ行為に対しては明確に一線を画すことが重要だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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