パレスチナ自治区ガザを2007年以来実効支配してきたイスラム過激テロ組織「ハマス」が10月7日、イスラエルに侵入して1300人余りのユダヤ人を虐殺して以来、不思議なことだが、ハマスのテロに抗議する反ハマス運動が広がるというより、反ユダヤ主義が拡散している。ハマスのテロの犠牲者のユダヤ人がその後、世界各地で反ユダヤ主義的言動に直面しているのだ。このコラム欄でも加害者と被害者の逆転現象については報告済みだが、被害者のユダヤ人が世界各地でバッシングを受けている。

ウィーン市庁舎前広場のクリスマス市場を訪れる家族連れ(2023年11月12日、ウィーンにて)
もちろん、ハマスのテロ奇襲に対してイスラエル軍の報復攻撃で多数のガザのパレスチナ人、特に、女性、子供たちが犠牲となっていることに対する憤りや批判の声が反ユダヤ主義を引き起こしているともいえる。ただ、反ユダヤ主義の拡散状況を見ていると、それだけではないようなのだ。以下、少し説明する。タイトルは「反ユダヤ主義の亡霊の存在証明」だ。
ユダヤ民族への憎悪、恨みなどの感情には、少なくともユダヤ人が眼前にいるか、その環境圏に住んでおり、社会、国家にそれなりの影響を行使するユダヤ人コミュニティの存在が前提条件のように考えられるだろう。その条件からいえば、国別ユダヤ人人口で最も多くのユダヤ人が住んでいる国は1948年に建国されたユダヤ民族の国イスラエルだ。それに次いで米国だ、欧州ではフランスに最も多くのユダヤ人が住んでいるので、その国・地域には反ユダヤ主義が生まれてくる土壌はあるといえるわけだ。実際、イスラエルを除いて、米国やフランスではハマスのテロ以後、親パレスチナのデモや反ユダヤ主義のデモ集会が頻繁に開かれている。
ここまでは理解できる範囲だ。周囲に多くのユダヤ人が住み、生活している。そのコミュニティは他とは異なる伝統や風習から食事・生活様式を堅持している。何らかの不祥事が生じれば、それらが契機となって反ユダヤ主義が爆発しても不思議ではない。米国やフランスの現在の反ユダヤ主義的言動は「起きるべくして起きた」とも言われるほどだ。一部では、ハマスのテロ事件後、「これまで黙ってきた反ユダヤ主義的言動が言いやすくなった」という知識人がいたほどだ。
次は「反ユダヤ主義という亡霊の存在証明」に入る。極端にいえば、ユダヤ人が住んでいない国、地域でも過激な反ユダヤ主義的言動が起きている。
最近ではロシア南部ダゲスタン共和国の首都マハチカラの空港で10月29日、イスラエルのベングリオン空港から飛び立った飛行機がマハチカラに到着、乗客にイスラエル人がいるという情報がソーシャルネットで流れると、過激なイスラム教徒が空港に殺到して、ユダヤ人乗客を探しては、暴行を加えたり、帰れと叫んだという。空港内の暴動を放映した西側のメディアは、「21世紀のポグロム(ユダヤ人迫害)のようだ」と報じたほどだ。