ネットで「宗教史でみると、宗教家としては日蓮、親鸞といった教祖を別人にすると、聖徳太子、行基、蓮如、池田氏が突出した存在である」との論評もあり、そこまでいっていいのかなあと、感じました。私には宗教家というより、大衆運動家だったという印象です。あるいは大衆運動家兼宗教家という側面で考察したほうがすっきりした評価ができる。
池田氏が創価学会の会長を引き継いだころ(1960年)、会員数は3000人、それを飛躍的に伸ばし、現在は公称827万人だそうです。あくまで公称で、実際は高齢化などで相当減っているようであっても、すごい数字だ。
地方から都会にでてきた貧しい青年を巧みに救いあげ、公明党を結成して政治運動化によって信者を増やし、寺ではなく各地に文化会館を建設し、活動拠点とするなど、従来の仏教のスタイルとは距離があります。
公明党の結成(1962年)の党是は「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」ですから、池田氏はやはり大衆運動家だと思います。大衆引きつけて、共産党の対抗勢力ともなりました。もっとも時代は変わり「大衆」の定義が難しくなり、しかも会員の高齢化で教勢、党勢が弱まっています。どう池田氏の後継者の苦難が予想される。
私は新聞社から出版社に出向して、池田本二冊の発行に関わりました。「人生は素晴らしい」(2004年)、「池田大作名言100選」(2010年)です。そのことを通じて、創価学会の体質、特徴を体感することになりました。そのころは、言論妨害事件の後遺症も収まり、池田本を扱う出版社も増え、こちらとしては通常の出版の扱いです。
違ったのは担当者からの「創価学会の本部(信濃町)に行ってトップに挨拶をしてほしい」との依頼です。トップといっても、池田大作名誉会長ではありません。本部に行きますと、受付で「どうぞ二階に上がって下さい」と言われ、エレベーターを使いました。
エレベーターのドアが開き、降りようとしますと、目の前に、なんと当時の秋谷会長と原田事務総長(現会長)のお二人が並んで待っていました。何もそんなことまでしていただかなくとも、という感じでした。いよいよ発売が近づくと、担当者から「地方でも拡販したいので、地方本部の代表(理事クラス)に挨拶にいってほしい」と。
福岡、大阪、横浜の本部にお伺いして、出版の説明と拡販のお願いをしたしました。東京では原田総長、地方では地方代表が会合の際に、「名誉会長の本が出版されることになり、出版社が挨拶にこられました」と紹介するため、この種の挨拶は必須の条件になっているようでした。
私は新聞社の大阪本社にも出向しました。大阪は東京に次ぐ学会の最重要の拠点です。大阪本社は聖教新聞の委託印刷(そのころは地方紙を含め、20社以上)、委託輸送を契約していました。委託を通じて、創価学会の影響を受けるのではないかと警戒する時期はもう過ぎていました。
もっとも11月18日の創立記念日には、大阪本部に挨拶に行き、お祝いの花を届ける慣行になっていました。今では合理化のため、どんどん新聞社間の印刷協力、委託配達が広がっていますから、聖教新聞の委託印刷、委託輸送もビジネス上の話と割り切って扱う時代です。
驚いたのは読売ジャイアンツが優勝した時のことです。大阪の本部から祝いの胡蝶蘭が届けられました。そうしたことを通じて、人脈を増やしていくのでしょう。計算しつくされた慣行だなあとの印象です。
最後に、聖教新聞の大阪代表だった方のことを紹介します。定年を迎えて東京に戻られました。しばらくしてお目にかかり、「何をなさっているのですか」と聞く機会がありました。「最近、学会から遠ざかっている人の家を毎日1回は訪問し、近況を聞いてあげています」と。
ある時、定年退職した会員の家に行きますと、奥さんに「夫は退職後、『おれは十分に働いた』といって、家ではごろ寝、テレビ漬けです。私は友たちとの会食、外出もままならなくなり、ノイローゼ気味です」と、訴えるのです。「夫源病」(ふげんびょう)です。
元大阪代表は、ご主人に向って「私の家庭訪問に週3回ほど、付き合い同行してほしい」と頼みます。始めは渋々、それが何回か重なると、「暮らしが厳しい。健康が優れない」という人に何度も出会います。
しばらくすると、そのご主人はごろ寝の自分を反省し、家庭訪問を繰り返すうちに、みるみる顔つきが変わり始め、生き生きとしてきたそうです。私はその話を聞いて、大衆運動家の血が末端まで流れている。宗教団体という名称ではくくれない組織だなあと感じたのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年11月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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