気持ちの良さを追求した新たな姿勢

 シビック3ドアHBの第一印象は「ずいぶん大きくなったな」「大人っぽい表情になったな」といったものだった。シャープで若々しかった旧型よりジェントルなものの、穏やかな中にも力強さはあるし、見ていて気持ちのいいルックスである。質感もなかなかいい。スリーサイズは4180×1695×1375㎜だ。

 キャビンはそうとう広い。身長165㎝のボクが前後に座った状態で、後席ひざ元には握りこぶしが2個半入るくらいの大きな余裕が残る。ヘッドクリアランスの余裕も十分だ。シートの作りもいい。大人4名で長距離ドライブが楽しめるキャビンである。

 運転席に座ってまず「いいな」と思ったのは、ボンネットが見えるようになったこと。目の前の道路が少しよく見えるより、あるべきものがちゃんと見える方が落ち着ける。安心感もある。

【ボクらの時代録】1995年の日本カー・オブ・ザ・イヤー。6代目ホンダ・シビック(EK2/3/4/5型)の時代に寄り添う姿勢
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)
【ボクらの時代録】1995年の日本カー・オブ・ザ・イヤー。6代目ホンダ・シビック(EK2/3/4/5型)の時代に寄り添う姿勢
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 SiR-IIが搭載するエンジンは、いうまでもなくホンダの誇るDOHC16V・VTECのスポーツエンジンだ。VTECとは低速と高速でバルブタイミングとバルブリフト量を切り替え、低速性と高速性を高次元で両立させるメカニズム。1.6リッターのNAで、MT車は170ps/7800rpmの最高出力と16.0kgm/7300rpmの最大トルクを発生する。

 ちょっと前までなら、リッター100psを超えるNAエンジンはレーシングカー用だった。高性能でも、サーキットでしか走らせることができないほど、柔軟性のないエンジンばかりだった。
 だがSiR-IIのVTECの威力は始動するだけで、走らなくてもすぐにわかる。リッター当たり出力が100psを軽く超えるというのに、アイドリングは滑らかそのもの。じつに安定している。走り出せばさらにその威力を思い知らされる。なんと4速ギアの1000rpmでも、むずがる気配などまるでなく、スムーズに走り続けられる。

 目の前が開け、アクセルをフルに踏み込むと、このエンジンは一気に8200rpmのレッドラインまで回転を上げる。一点のストレスもためらいもなく、だ。パワーカーブはVTEC機構が切り替わる5000rpmを超えたあたりで、気持ちいいステップ感をともなって一段と上昇し、エキサイティングなサウンドを奏で始める。SiR-2はこのエンジンを味わうだけで価値がある。ハンドリングとフットワークも気持ちがいい。
(岡崎宏司/1995年10月26日号発表)

1995年ホンダ・シビック/プロフィール

 シビックは累計生産台数が1000万台に到達した4カ月後の1995年9月にモデルチェンジ。6代目のカタログの表紙には「つくりたかったのは、誰もが体感できる身近な高性能です。」と記載し、新時代の高性能/徹底した高品質/総合的な安全性/快適な空間設計をアピールポイントに掲げた。3ドアHBとセダンのフェリオの2シリーズ構成。1996年1月には米国生産のクーペを輸入開始。3ドアHBは、旧型の斬新な4シーターパッケージから、ルーミーな5シーターに変更。使い勝手を重視した姿勢に回帰する。

【ボクらの時代録】1995年の日本カー・オブ・ザ・イヤー。6代目ホンダ・シビック(EK2/3/4/5型)の時代に寄り添う姿勢
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)
【ボクらの時代録】1995年の日本カー・オブ・ザ・イヤー。6代目ホンダ・シビック(EK2/3/4/5型)の時代に寄り添う姿勢
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

メカニズムは旧型を大幅に熟成。SiR-2は1.6リッターのハイパワーVTECユニットを搭載。リッター出力100psをオーバーする170ps(MT仕様)を実現する。一方、主力の1.5リッターに燃費を含めたトータル性能を高めた3ステージVTEC(130ps)と滑らかな変速フィールのCVTの組み合わせを用意したのもポイントだった。足回りは全車が4輪ダブルウィッシュボーン式。6代目は、1997年8月に走りを極めた「赤バッジ」のタイプRを追加。タイプRの心臓は185psにチューンされ、足回りを専用セッティング。サーキットを射程に収めた高性能でマニアにアピールした。