FTOは若者にターゲットを絞ったフレッシュモデル
三菱FTOは若いユーザーにきっちりとターゲットを絞っている。セリカやシルビア、プレリュードと同じグループに入るスペシャルティモデルではあるものの、より若いユーザーに受け入れやすいクルマに仕上がっている。
ボディは2+2のクーペだ。若々しく、すごく印象的なダイナミックさだ。「止まっているときでも、いまにも走り出しそうな躍動感を目指した」とは三菱のデザイナーの表現だが、ボクは素直にうなずく。いかにも速そうなグラマラスな肢体は、とくにリア回りが魅力だ。
コクピットはスポーツ車らしいタイト感があり、シートのサポート性も優秀。ワンアクションで大きく転舵できるドライビングポジションがとれるのもいい。ただし強く傾斜したフロントスクリーン上部が接近しているし、ダッシュボードのボリューム感も大きいため、少し圧迫感がある。定員は4名だが、後席は補助席レベルにすぎない。誰かを乗せるにしても、小柄な人に限った方がいいだろう。基本的には2シーターと考えておくべきクルマである。


試乗車はトップモデルのGPX。エンジンは2リッター・V6DOHC24VのMIVECで、200ps/7500rpmの最高出力と、20.4kgm/6000rpmの最大トルクを発揮する。このV6はレスポンスよく、パワフルで気持ちよく回る。「フォーン」という音も心地いい。
トランスミッションは注目のINVECS-2。ATのイージーな走りと、マニュアルのスポーティな走りを両立させた新世代ミッションである。ポルシェが先鞭をつけたティプトロニックと同様の「スポーツモード」は魅力的だ。セレクターのタッチに軽々しさがあるものの、走りはなかなかのレベルに仕上がっている。エンジンとトルコンのマッチングは上々。ロックアップのオン/オフを含めたシフトマップもよくしつけられている。AT車であっても、発進から高速域まで十分な瞬発力が味わえる。スポーツモードでマニュアルセレクトを繰り返しながらの走りは、スポーティなドライビングの楽しさを堪能できる。
トラクションも十分だ、試乗時は雨が降っていたが、LSDとトラクションコントロール(ともにop)が非常にいい仕事をしてくれた。フルパワーでの発進も、タイトなコーナーからの立ち上がりでも、パワーはロスなく路面に伝わり、前輪が力強くFTOを前へ前へと引っ張っていってくれた。
(岡崎宏司/1994年12月26日号発表)
1994年三菱FTO/プロフィール
FTOはワゴンやRVが全盛だった1994年10月、「ドライビングの楽しさ」を追求したスペシャルティクーペとして発売。FTOのネーミングは1970年代に存在したモデルの復活だった。ランサーを基本に開発され、ベース車と共通の2550mmのホイールベース中央に前席を配置。前後オーバーハングを切り詰め全長を4320mmに抑えていた。エンジンは2リッター・V6DOHC24V(200ps/170ps)と1.8リッター直4SOHC(125ps)の計3種。


話題はINVECS-2と呼ぶマニュアルセレクト可能な4速ATの設定だった。ポルシェが先鞭をつけたスポーツAT、ティプトロニックと同様に自在なシフトが楽しめ、イージーで意のままのドライビングを可能にした。FTOが登場するまでスポーツモデルはMTが主流。FTO以降はAT派が急増した。INVECS-ⅡはDレンジ時にレバーを左側に倒すとスポーツモードに移行。ノブを前方に押すとシフトアップ、手前に引くとシフトダウンが楽しめた。パドルシフトは未装備だったが、手首の動きだけで適切なギアが選べる機構はスポーツ派ドライバーにとって朗報だった。スポーツモードを備えたATはその後、各社が採用し、ATのスタンダードになる。