ダビデがゴリアテを倒す世界

現代における国際関係は、核武装した大国が中小国の抵抗にあったり振り回されたりするストーリーに満ちています。

セクサー氏とファーマン氏によれば、核武装国の強制は、第二次世界大戦から2001年までの全ての事例において、40件も失敗しています。核兵器を持たない小国でも核大国に平気で歯向かうのです。プエブロ号事件において、超大国のアメリカは小国の北朝鮮に振り回されました。

1968年、アメリカの情報収集艦プエブロが北朝鮮に拿捕され、乗組員のアメリカ人は人質にとられました。アメリカは原子力空母や戦略爆撃機を北朝鮮周辺に展開して、同号の返還と人質の解放を要求する「瀬戸際外交」を展開しました。しかしながら、北朝鮮は強硬な態度を貫きました。

結局、アメリカは人質を解放させるだけにとどまり、北朝鮮に対して謝罪することに追い込まれただけでなく、プエブロ号を取り戻せませんでした。その他、マヤグエース号事件のカンボジア、米大使館員人質事件のイランなどもアメリカに盾付き、武力の威嚇による要求も受け入れず抵抗しました。

日本が尖閣諸島を国有化した際に、中国は核兵器で脅して、この問題を自国にとって有利にしようとしましたが、日本政府にはまったく効きませんでした。多くの事例では、核による強制は、それを成立させる条件が満たされないので、その威嚇は信頼性に欠けてしまいます。その結果、国家は核兵器で恫喝しても、相手はそう簡単には言うことを聞かないのがしばしばなのです。

要するに、政治学の常識は、核兵器による強制を否定しているのです。このことについて、ジョン・ミアシャイマー氏(シカゴ大学)とセバスチャン・ロザート氏(ノートルダム大学)は、

「核兵器による強制の理論は、核兵器を持つ国家が、それを使って非核国を脅して……その行動を変えさせられるという……しかし、この理論を経験的に検証したところ、学者のコンセンサスは、これには信ぴょう性がないということであった」

(John J. Mearsheimer and Sebastian Rosato, How States Think: The Rationality of Foreign Policy, New Haven: Yale University Press, 2023, p. 58)

と結論づけています。

強制外交だけでなく戦争においても、核武装した大国は小国に何度も敗れています。冷戦の二極システムにおいて、アメリカはベトナム戦争で北ベトナムに敗れました。これはソ連と中国というパトロン大国がクライアント国である北ベトナムを支援したからだと説明できるかもしれません。

それでは、ニクソン政権は核兵器による脅しを北ベトナムにかけて屈服させようとした強制外交は、どうだったでしょうか。これはハノイ政権には全く効きませんでした。アメリカの核恫喝は北ベトナムから何の譲歩も引き出せなかったのです。

冷戦後の単極時代には、アメリカはアフガニスタンとイラクに侵攻しましたが、これらの「永久戦争」において、アメリカは事実上、敗北しました。アメリカ以外の大国も小国に対する戦争で何度も苦戦もしくは敗退しています。1979年、ソ連はアフガニスタンに侵攻しましたが、これはみじめな失敗に終わりました。中国はベトナムに対して「懲罰戦争」を行いましたが、その結果は「勝利」とは程遠いものでした。

羊飼いのダビデが巨人兵士のゴリアテを倒す物語は、『旧約聖書』に載っている有名なものです。国際政治の世界において、このストーリーさながらのことは、私たちの直観に反して何度も起こっているのです。

国際関係の分析において、感覚的な思考や判断はあまり当てにできないからこそ、信頼性のある理論(=政治学の常識)が必要になるのです。こうした点について、政治学者の河野勝氏(早稲田大学)は次のように主張しています。

メディアに登場するコメンテーターや評論家たちが、何の根拠もなく、また政治学の常識からすると明らかに間違った解説を平気で述べていることに対しては、「プロ」としてチェックの目を働かせ、時には憤りを感じて彼らを批判し、学生たちに対してはそうした素人たちの誤りを見抜くリタラシーを高めよ、と教育する(のだ)。(河野勝『政治を科学することは可能か』中央公論社、2018年、ivページ)

私がどれだけ能力のある「プロ」なのかはさておき、この指摘には頷くしかありません。

核武装国が中小国に対して無理難題を強要できるようになるという言説は少なくとも、核兵器を使用することのコストとリスクを軽視しているだけではなく、損失を回避するためにリスクを顧みずに死に物狂いで抵抗する中小国の行動を理解していない「俗説」、すなわち「政治学の常識」に反するといってよいでしょう。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?