21世紀の勝ち残りを目指した欧州戦略車
ヴィッツは新世代コンパクトカーの世界基準を目指した意欲作であり、21世紀の勝ち残りを目指すトヨタの世界戦略車である。とくに実力派の小型車が目白押しのヨーロッパ市場で強力な地歩を築くための切り札的な存在のクルマといっていい。
3610×1660×1500mmのボディには、トヨタの世界戦略への道筋がぎっしりと詰め込まれている。品質、コスト、デザイン、パッケージング、走行性能、環境性能――そう、ヴィッツ(=ヤリス)は、こうした種々の点で高得点を獲得し、ヨーロッパの実力派小型車たちと対等、あるいは対等以上の魅力を実現することが求められている。
ヴィッツのキャビン空間は広く、重量は810〜880kgと非常に軽い。もちろん衝突安全性では世界トップレベルの基準をクリアしている。つまり、小さくて、軽くて、高い衝突安全基準を満たし、スペース性に優れている、というわけだ。これらはまさに新しいコンパクトカーに求められる基本素養である。


ルックスは塊感が強く、個性的でインパクトがある。これだけ強い自己主張があればヨーロッパでも十分目立つだろう。ちなみにこのエクステリアデザインは、トヨタの欧州のデザイン拠点に籍を置くギリシャ人デザイナーの作品と聞いた。
インテリアも立体感の強い造形でまとめている。各種コントロール系は扱いやすく、物入れが豊富にあるのもうれしい。誰にでも見やすいセンターメーターも大歓迎だ。エクステリアにしてもインテリアにしても、価格に対するバリュー感は高い。
試乗車はF・DパッケージのAT車である。ヴィッツのエンジンは1種類。997ccの排気量から70ps/9.7kgmを発揮する。軽量でコンパクトな直4DOHC16Vエンジンは、実用性能を最重視してゼロから新設計した。電子制御4速AT(スーパーECT)とのコンビネーションは、ハイウェイやヒルクライムも含めた日常走行域で十分に活発だし、それなりのパンチもある。燃費のよさを含めたトータルな動力性能が世界トップクラスにあることはまず間違いないだろう。
ただし振動・騒音的にはあまり高い点はつけられない。ロードノイズはかなり大きく、乗り心地はとくに可もなく不可もなしといったところ。このあたりは今後に残された課題である。
(岡崎宏司/1999年3月10日号発表)


1999年トヨタ・ヴィッツ/プロフィール
ヴィッツは「新世代コンパクト」を目指した新設計モデル。トヨタの世界戦略車として1999年1月に誕生した。キャラクターはトヨタの魅力がすべて味わえるクラスレスな存在。カタログでは「サイズの枠も概念も打ち破ったコンパクトカーが、トヨタから日本へ世界へ21世紀へと向けて走り出しています。」とアピール。欧州生まれのデザインと驚くほど広い室内空間、そしてコンパクトサイズならではの扱いやすさが特徴だった。当初のパワーユニットは1リッター直4DOHC16V(70ps)のみ。1999年8月に1.3リッター直4DOHC16V(88ps)と4WDモデルを追加した。


ヴィッツは4ドアセダンのプラッツ、ユーティリティワゴンのファンカーゴなど基本メカニズムを共用する仲間とともに人気を拡大。日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するとともに、欧州カー・オブ・ザ・イヤー2000も受賞。グローバルで高評価を得た。ヴィッツが登場するまで、日本のコンパクトカーはやや保守的な印象が強かったが、ヴィッツは欧州車以上に合理的で、愛らしいキャラクターの持ち主。生活のパートナーとして便利なだけでなく、所有することが誇りになり、走るほどに楽しさが実感できた。