ウィーンに暫定技術事務局を置く包括的核実験禁止条約機構(CTBTO)の行方は一層不透明となってきた。CTBT(包括的核実験禁止条約)は1996年の国連総会で署名が開始され、今年で27年目を迎えたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を依然満たしていないため、条約は発効していない。

北京で外務省軍備管理軍縮局長の孫暁波氏と会談するフロイド事務局長(CTBTO公式サイトから、2023年10月30日)

そのような中、核大国のロシアは今年10月、CTBTの批准を撤回する意思を表明し、下院が10月18日、上院は10月25日にそれぞれCTBT批准撤回法案を可決。それを受けてプーチン大統領は今月2日、CTBTの批准を撤回する法案に署名し、同法は成立したのだ。

CTBT署名国数は11月現在、187カ国、批准国177国だ。条約発効には核開発能力を有する44カ国=発効要件国の署名、批准が条件だ。その44カ国中で署名・批准した国は36カ国に留まり、8カ国の署名・批准が依然欠けている(米国、中国、インド、パキスタン、イラン、エジプト、イスラエル、北朝鮮)。過去6回の核実験を実施した北朝鮮は未署名、未批准だ。

CTBTOは現在、国際監視制度(IMS)を構築中。IMSは核爆発を探知するネットワークで全世界に4種類の観測所(地震観測所、微気圧振動観測所、水中音波観測所、放射性接種観測所)を設置し、監視している(IMSは過去、インドネシアの大津波など自然災害の対策にも貢献した)。

米国は1996年9月24日にCTBTに署名したが、クリントン政権時代の上院が1999年10月、批准を拒否。それ以後、米国は批准していない。一方、ロシアは2000年6月30日に批准済みだ。ロシアが今回、CTBT批准の撤回を決定したが、米国はモスクワを批判できない立場だ。

プーチン大統領は今年2月21日、年次教書演説でウクライナ情勢に言及し、「戦争は西側から始められた」と強調し、戦争の責任は西側にあるといういつもの論理を展開する一方、米国との間で締結した核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(新START)」の履行停止を発表した。ロシアのCTBT批准撤回はその第2弾目の核軍縮に逆行する決定だ。

プーチン大統領は近い将来、北極のソ連時代の核実験場ノヴァヤ・ゼムリャ島(Nowaja Semlja)で1990年以来初めての核実験を実施するのではないか、という懸念の声が欧米軍事関係者から聞かれる。ロシア国防省関係者は、「プーチン大統領によって命令された核実験の再開準備は確実に遂行される。そのための準備を行ってきた」と説明している(「ロシアは近い将来『核実験』再開か」2023年8月18日参考)。

ロシアのCTBTの批准撤回はCTBTOにとって大きな打撃だ。もはや「条約の発効」云々ではなく、「CTBTOの存続」にもかかわるからだ。米国と並んで世界の核大国が核軍縮に対してはっきりと「ノー」というスタンスを取り出したからだ。

さぞかしCTBTO関係者は失望しているだろう、と考えていたが、オーストラリア人のロバート・フロイド事務局長は先月末から中国を訪問し、CTBTOと中国との間でパートナーシップを強調するなど、活発な動きを見せている。ロシアが出て行っても中国がいる、というわけではないだろうが、フロイド氏は中国政府高官らと会談し、中国の国家データセンター(NDC)や複数の国際監視システム(IMS)施設を訪問している。国連機関のトップが1週間も中国を集中的に訪問することは異例といわざるを得ない。