現時点で、まだ日本では公開が決まっていないようだが、去る8月末、米映画「オッペンハイマー」をロンドンで見た。米国の物理学者で「原爆の父」と呼ばれるロバート・オッペンハイマー(1904―67年)の物語だ。第2次世界大戦中、ロスアラモス研究所長として原子爆弾製造計画(「マンハッタン計画」)を主導した人物である。映画は7月末から世界各地で上映されている。
米国の原爆投下と英国「オッペンハイマー」は、公開前から物議をかもした。
同時期に上映された「バービー」と「オッペンハイマー」の題名を合わせて「バーベンハイマー」という宣伝語が生まれ、ソーシャルメディア上でファンが作ったミームの1つはオッペンハイマーの肩に乗ったバービーが原爆を思わせる爆発を背景にはしゃぐものだった。「バービー」の公式アカウントが好意的な投稿を返したことから、日本で批判が高まった。
確かに、筆者自身もミームは原爆の恐ろしさや犠牲者の痛みに無神経な感じがした。
しかし、1945年8月時点で日本に原爆を投下する必要があったのかどうかや原爆による被害の大きさについては原爆を投下した国(米国)と投下された国(日本)では認識が異なるのではないかと常々思ってきたので、こうしたミームの出現にそれほど驚く気持ちはなかった。

映画 オッペンハイマー
筆者が今住んでいる英国は投下した国でも投下された国でもないが、戦時中は投下した米国とともに連合軍を結成し、日本やドイツなどの枢軸国側と戦った。独自の原爆製造計画を立てていたが、1943年に米国と共同開発することを決め、国内の科学者を続々とロスアラモス研究所に送った。1945年7月、チャーチル英首相は米国が日本に原爆投下することに同意している。7月末の総選挙でチャーチル率いる保守党政権が負け、労働党党首アトリーによる新政権が発足する。
8月1日、トルーマン米大統領はアトリー首相に日本への原爆投下の決断を知らせた。ドイツ・ポツダムでの戦後処理の会議「ポツダム会談」(7月17日~8月2日)の最中のことである。広島への原爆投下は8月6日。長崎への投下はその3日後である。
原爆製造に米国の同盟国として協力し、日本への投下に合意した国、英国。そんな国に住む自分から見た「オッペンハイマー」の感想を記してみたい。