勝利へのこだわりとフェアプレー精神

時には際どい発言をして他クラブのサポーターから批判を浴びることもある長谷部監督だが、チームが勝利するためには矢面に立つことを厭わない。というより「彼は未だにガラケーだから、選手がSNSで上げているものを何も見ていないし、何も気にしていない」(川森敬史会長)という発言から想像するに、匿名で発せられる喧騒はおそらく知りもしない。

通常、アウェイでの試合は前日移動が多く見られるが、浦和との決勝戦に向けては2日前から東京に入っていた福岡。これは1%でも勝つ可能性を上げたいという考えの表れであり、勝利へのこだわりを感じる。守備をベースにした戦い方も勝利を求めるがゆえだ。「自分の理想的なプレースタイル、プレーモデルはありますが、自分たちに最適なものを、できるものを、監督やコーチングスタッフ、選手で何ができるのかというところから選んでいる」と語っており、優先順位がブレることはない。

勝利のためなら何でもするかといえばそうではない。昨2022シーズンの第28節、名古屋グランパス戦(2-3)で起きた事案がそれを象徴している。判断ミスなどによる疑惑のプレーで福岡がゴールを挙げると、長谷部監督が選手に指示し、名古屋に「お返しゴール」として1ゴールを献上した。その際「何が何でも勝ちたいです。だけども、そういうことしてまでというのはちょっと違うと思う」と語り、フェアプレー精神とリスペクトを欠かさない姿勢を貫いた。

アビスパ福岡 長谷部茂利監督 写真:Getty Images

モチベーターとしての伝達術

今季、福岡は開幕前から「リーグ戦8位以上、カップ戦ベスト4以上」という目標を打ち出していた。天皇杯はベスト4、ルヴァン杯は優勝、そしてリーグ戦もあと3試合を残す現時点8位と全ての目標を達成し得る状況だ。現状を正確に分析して立てた目標であると同時に「J1に居続け、ベスト4に入り続けたらカップ戦で優勝するチャンスが必ずあります。それが今回です」と目標を定めた狙いを語っている。

天皇杯、ルヴァン杯ともに勝ち進んでも、長谷部監督は優勝という言葉をなかなか発しなかった。ようやく選手たちにその言葉を伝えたのは、ルヴァン杯と天皇杯ともにベスト4という当初の目標を達成したあとのタイミングだ。川森会長も「(長谷部監督は)モチベーターですね。全ての物事はチームが勝つために、という軸があります。発する言葉は全て勝つための発信だと思っています」と語っており、常に選手のモチベーションを考えて発言していることが分かる。


アビスパ福岡 MF井手口陽介 写真:Getty Images