苦節28年がもたらしたもの

1996年のJリーグ参入以来、苦しいシーズンを過ごしてきたアビスパ福岡。28年のJリーグ生活のうち、半分を超える16年間はJ2リーグで過ごしている。J1から初めてJ2へと降格した2001年以降、何度かJ1に復帰するも残留できず翌年再び降格する「エレベータークラブ」の座を脱することができず、予算規模が10億円を下回る時期もあった。

さらに2013年には深刻な経営問題が発覚し、クラブそのものがなくなる危機に直面。そんな窮地を何とか乗り越えた福岡だが、現在もなおJ1リーグ内では予算の小さなクラブの1つに数えられている。幾多の苦難を乗り越え、歴史として紡いできたからこその初タイトル。そこには、チームという枠を超えて繋がる一体感があった。

たとえば、福岡にはオフィシャルチアリーダーズ通称「アビチア」がいる。ホームゲームでは毎試合、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる彼女たちだが、予算の限られている福岡は決勝の地に彼女たちを連れていくことが難しかった。そこで「アビチアを国立に連れてって!」というクラウドファンディングを実施したところ、24時間かからずに目標金額を達成。これにより、アビチアは国立競技場でチームを後押しするパフォーマンスを行うことができた。また、決勝戦の前に行われた『ルヴァンカップキッズバトル』では、各クラブのエスコートキッズでもある子どもたちがドリブルゲームとシュートゲームを行い、客席からは盛大かつ暖かい拍手が送られた。性別・年齢問わず、福岡に関わる全ての事象をサポーターやスポンサーが支えているのだ。

そして、一体感を最も表わしていたのがキックオフ前に掲げられた横断幕の数々だ。現在のチームを鼓舞するものと共に掲げられた『藤枝ブルックスFOREVER』や『中央防犯』といった幕は、福岡の前身であるクラブ名を示すものであり、過去の歴史を含む様々な想いを忘れないという心意気を象徴していた。幾多の苦労や悔しさを乗り越えた福岡サポーターは、クラブやチームに関わる人々に感謝を示す場面が多くみられる。選手たちに対してもそうだ。試合に負けたあともブーイングではなく後押しの声が送られる。チームにポジティブな声掛けをする長谷部茂利監督が就任して以降、その空気感はますます強くなり、スタジアムにもポジティブな声が増加した。ここまでの28年間、できれば避けたかった悔しい経験から獲得した大きな財産と言えるだろう。


アビスパ福岡 FW城後寿 写真:Getty Images