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  1. 要因分解って何だろう?

    前回は、日本の平均給与の実質化について考えてみました。

    日本は物価指数が停滞していて、指数間の乖離も大きいため、実質化する物価指数によって数値も大きく変わる事がわかりました。

    特に平均給与を実質化すると、名目値そのものがアップダウンしているため、指数によっては停滞しているようにも、減少し続けているようにも計算されます。

    今回は、OECDの平均給与(フルタイム相当労働者の平均給与)の実質値について、要因分解を試みたいと思います。

    要因分解については今回初めて知ったのですが、計算方法のポイントを抽出すると次のようなことになります。

    ある経済指標Aが、その構成要素B、C、Dから次のように定義されていたとします。

    A = B x C ÷ D

    この場合、経済指標Aの前年からの成長率は、次のように各要素の寄与度の総和として計算されるというものです。

    Aの成長率 = Bの成長率 + Cの成長率 – Dの成長率

    それぞれの構成要素の成長率の足し算と引き算だけで、Aの成長率が表現される事になります。

    逆に言えば、指標Aの成長率に対して、各要素がどのように寄与したのかがわかりますね。

    構成要素が掛け算であれば成長率は足し算に、割り算であれば成長率の引き算になります。

    当然、上記計算には多少の誤差が含まれますが、学術的な正確性を求めるわけではありませんので、当ブログのようにざっくりと傾向を分析する上では非常に有用と言えます。

    ポイントは、指標Aが構成要素の掛け算と割り算だけで成り立っている場合に成立するというところですね。

  2. 平均給与の要因分解

    今回は、前回までにご紹介してきた平均給与について要因分解してみたいと思います。

    OECDの平均給与実質値は次のように定義されています。

    平均給与実質 = 賃金・俸給 ÷ 雇用者数 ÷ 物価指数 x フルタイム労働比率

    ちょうど各要素の掛け算と割り算で表現されている事がわかりますね。つまり、平均給与の実質成長率は次のように分解できるという事になります。

    平均給与実質成長率 = 賃金・俸給成長率 – 雇用者数成長率 – 物価成長率 + フルタイム労働比率成長率

    各項目はどのような意味を持つのかを、まず整理してみましょう。

    それぞれの成長率の符号もよく考える必要があります。

    賃金・俸給成長率 GDP分配面に含まれる賃金・俸給の総額となります。 これがプラス成長するという事は、給与総額が増えているという事になり、平均給与の実質成長率へもプラスの寄与をすることになります。

    雇用者成長率 雇用者(雇われている労働者)の人数の変化です。 賃金・俸給が一定とすると、人数が増えるほど平均値が下がります。 このため、雇用者が増えると、平均給与の実質成長率にはマイナスの寄与をする事になります。

    物価成長率 物価が上がるほど平均給与の実質成長はマイナスとなりますね。 したがって、物価上昇は平均給与の実質成長率へマイナスの寄与をすることになります。

    フルタイム労働比率成長率 フルタイム労働比率は、フルタイム労働者の平均労働時間を雇用者全体の平均労働時間で割った指標です。 主要国では概ね105%~115%の範囲です。この数値が大きくなるほど、全体に占めるパートタイム労働者の労働時間が増えている事になります。 他の指数が一定であるならば、フルタイム労働比率が増えると平均給与の実質成長率へはプラスに寄与することになります。