この図表は、総務省「家計調査」(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)データに基づき、2000年と比較して、2010年や2022年の「勤め先収入」「直接税の負担」「社会保険料の負担」が何倍となったのかを示すものだ。
2000年と比べ、2022年の「勤め先収入」は1.07倍しか増えていないが、家計の「直接税」負担は1.23倍となり、「社会保険料」負担は1.4倍にも増加している。
これは、収入から税や社会保険料の負担を除いた、家計の「手取り収入」は減少したことを意味する。このうち、伸びが著しいのは「社会保険料」負担だが、東京財団政策研究所のコラムのとおり、社会保険料率は今後も増加し続ける可能性が高い。これでは、国民生活が豊かになったと実感するはずがない。
今後、岸田政権の政策が実り、賃上げが実現しても、それ以上に「社会保険料」負担が増加するなら、家計の手取り収入は減少し、子育てを担う現役世代を含め、国民生活は一層厳しくなってしまう。手取り収入を増やすには、少なくとも「社会保険料」負担の伸びを賃金上昇率の範囲内に抑制する必要がある。
社会保障給付費の伸びと社会保険料負担、賃金上昇率と経済成長率(名目GDP成長率)は概ね連動するから、大雑把にいうならば、これは、改革を行い、社会保障給付費の伸び率を中長期的な経済成長率(名目GDP成長率)以内に留めて伸ばすことを意味する(注:実行可能な改革の具体案は拙著『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版社)等)。
この決定を総選挙で、岸田首相が国民に問うならば、改革の本気度が国民にも伝わるはずだ。改革の選択肢は2つしかない。
「社会保険料の上昇を抑制し、子育て世代を含め、国民の手取り収入を増やす」という選択肢①か、「社会保険料の継続的な上昇を許容するか」という選択肢②である。
かつて、小泉純一郎首相は「郵政民営化に賛成か」「反対か」という2つの選択肢を国民に示し、国民に信を問いたいと言って、2005年、解散総選挙を行った。郵政民営化は、小泉首相の持論であり、郵政民政化法案が否決された場合は衆議院を解散し、総選挙を実施すると言っていたが、2005年8月8日、同法案は国会で否決された。
この言葉を守り、小泉首相は解散総選挙をしたわけだ。国民に突き付けられた選択肢は、「賛成か」「反対か」という2つしかない。このような明確で2つしかない選択肢であったため、国民は小泉首相の本気度を信じて投票し、その結果、自民党は大勝、政権は盤石な基盤を構築した。
いま岸田首相に求められているのは、改革の本気度が伝わる選択肢を国民に示すことだ。すなわち、賃上げの実現には、手取り収入の増加が必要であり、「社会保険料の上昇を抑制し、子育て世代を含め、国民の手取り収入を増やす」という選択肢①か、「社会保険料の継続的な上昇を許容するか」という選択肢②を、総選挙などで、国民に突き付けることである。この国民との対話から、本物の政治や改革が生まれるはずだ。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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