言い換えれば黒田総裁の10年間の徹底したQE(量的緩和策)は日本経済を集中治療室から出すことなく、自力で立ち上がることすらできない「クスリ漬け」にした瀕死の重篤患者(=日本企業)に延命治療をし続け、「もっと薬をやろうか?もっと手術もできるぞ!」と豪語されたわけです。苦しい経済界や国民は「黒田さまのおかげで薬がこんなに簡単に手に入りました。でも私たちはもっと良くなりたいのでもっとお薬をください!」だったのです。「永遠のハト」と言われる日銀は「マネーの女神様」だったとも言えます。
世界基準、いや日銀という金融政策を担っている部隊として金融正常化できないことは恥なのです。暦年の日銀政策が間違っていて日本経済の足腰を強くするはずが骨粗しょう症にした、だから今からはカルシウムを取りましょう、いつまでもベッドで寝ていてはいけませんよ、というメッセージでもあるのです。
三菱UFJが10年物の預金金利を0.002%から0.2%に引き上げました。100倍です。どうしたら100倍という数字が出てくるのか、摩訶不思議としか言えないのですが、同行は更に引き上げもありうるとしています。日本の金融機関は100%これに追随します。預金をしている人は「へぇ、これからは金利というものがつくのかねぇ」と疑心暗鬼でしょう。
当然ながら飴とムチの関係があり、住宅ローンの固定型金利は10月末の10年固定型の単純平均の基準金利が3.80%で12年ぶり水準となっています。実際の金利は優遇金利なので各行違い、1.0-1.5%程度に収まります。
分かりにくい植田総裁ですが、言わんとしていることははっきりしているし、来年の春闘で十分な賃上げが確認されるまでは更なる正常化には踏み込めないと言っているのは正常化に向けた確証はそろいつつあり、あとは春闘でそれなりの数字が出てくれば歩を進めるといっているわけです。現状、来年の賃上げは今年ほどではないにせよ、継続的な引き上げが見込まれているし、人材不足が顕著になっている中で「金融正常化の目途」は総裁の心の中では出来上がりつつあるとみています。
そうでないと三菱UFJが金利を100倍にする理由が成り立ちません。プロは既にそこを読み込んでいるということです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月2日の記事より転載させていただきました。
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