不必要な謝罪は「共感的配慮」を相手に示すシグナルになる
実験の結果、ただ携帯電話を貸してほしいとお願いをした場合には、電話を貸りることができたのは全体の約9%にとどまりました。
一方で、不必要な謝罪をした場合には、全体の約47%が電話を貸してくれました。
その差は約5倍になります。
では、なぜ不必要な謝罪は依頼の成功率を高めるのでしょうか。
それは相手に「共感的配慮」を示していることを伝達するからだと考えられています。
共感的配慮とは、他者が感じている感情を考え理解し、さらに他者に対して気配りすることを意味します。
「共感」は他者が感じている感情を一緒に感じることを指すのに対し、「共感的配慮」は共感後の行動や発言までを含みます。
天候や災害、渋滞などに対して自責の念を持つ人は少ないでしょう。
それゆえ今回の実験で声をかけられた人は、自分が責任を感じたことのない事柄にさえも自責の念を抱き、謝罪をしている様子を見て、信頼の置ける人物である印象を抱くに至ったと考えられます。
研究チームは「不必要な謝罪は信頼性を高めるための強力で使いやすいツールである。過失がなくても雨について謝罪することは、謝罪をした当人の信頼性を高め、依頼を通しやすくする効果を持っている」と述べています。
ビジネスの場面で例を挙げると、交渉を行う前に「雨の中ご足労いただいてすいません」のような共感的配慮を示すことは信頼性を高めるのに有効だと考えられます。
しかし不必要な謝罪に負の側面が存在しないわけではありません。
研究チームは「今回の調査では不必要な謝罪の欠点の部分は特定しなかった。不必要な謝罪を繰り返したり、不誠実に見える余計な謝罪をすることは、異なる結果をもたらす可能性がある」と述べています。
では具体的に謝罪の繰り返しによるデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
繰り返し謝る場合には謝罪の質が問われる
頻繁な謝罪がもたらす効果に関する研究として、2021年の「Personality and Social Psychology Bulletin」に投稿されたピッツバーグ大学のカリナ・シューマン氏(Karina Schumann)らの研究があります。
彼らは、小説の中に出てくる登場人物の謝罪の頻度や現実場面の会話における謝罪の頻度を変え、印象形成がどう変わるかを検討しました。
実験の結果、謝罪を繰り返す人は誠実で優しいと思われる傾向がありました。
しかしなんでもかんでも謝ることで人情深い人物だと思われる訳ではありません。
謝る必要性が低い場面で謝罪を繰り返していた人は、自己主張や自信がないという悪い印象を抱かれる傾向があったのです。
研究チームは「今回の研究結果は、ただ頻繁な謝罪が印象を良くすると言うものではない。重要なのは謝罪の質で、どうでも良いことに繰り返し謝ることは印象を低下させるリスクを持っている」と述べています。
この結果を考慮すると、不必要な謝罪を繰り返してしまう人は、前述した信頼性を獲得することは困難で、逆に印象の悪化を招いてしまう可能性が考えられます。
重要なのは誠実であるということです。意味もなく条件反射的に謝罪を述べる人は、むしろ謝罪に何の感情もこもっていないという印象を持たれても仕方がありません。
天候や渋滞は確かに自分に責任のある話ではありません。しかしこうしたケースに対する謝罪は、意味のない条件反射の謝罪とは異なり、相手がストレスを受けている要因を慮って出た言葉なのが重要なポイントです。
謝罪とは、責任の有無が重要なのではなく、相手の気持ちを慮り、誠実な気持ちで述べているかという「質」が大切なのでしょう。
参考文献
Why You Shouldn’t Be Afraid to Apologize at Work
Are you a frequent apologizer? New research indicates you might actually reap downstream benefits
元論文
I’m Sorry About the Rain! Superfluous Apologies Demonstrate Empathic Concern and Increase Trust
The Social Consequences of Frequent Versus Infrequent Apologizing