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  1. 平均給与とは

    前回は、OECD各国の平均給与(Average annual wages)について、実質、名目(為替レート換算、購買力平価換算)について国際比較をしてみました。

    日本はどの指標で見ても停滞していて、先進国では既に下位グループに属すことがわかりました。

    今回は、平均給与の実質化とはどのようにされているのか、考え方と具体的な計算事例をご紹介します。

    これまでご紹介してきたGDPの支出面、生産面では、名目と実質が両面公開されています。実質とは、名目の数値を物価指数で割ったものですね。

    GDPに関するこれらの物価指数はGDPデフレータと呼ばれています。

    実質とは、ある基準年の物価で固定して、数量的な変化を金額として表現する試みとなります。

    一方で、GDPの分配面にはデフレータが存在しません。

    このことによって、分配面に属する平均給与などは、どの物価指数で実質化するかという物価指数の種類に対する選択肢が出てきます。

    そして、それが故に実質に関する混乱が生じているようにも見受けられます。

    例えば、以前ご紹介した通りOECDで公開されている実質の平均給与は停滞が続いていますが、減少しているわけではありません。

    一方で、日本の毎月勤労統計調査における実質賃金指数は1997年から減少が続いています。

    OECDの平均給与はフルタイム労働比率をかけてあって、一般的に考えられる平均給与(フルタイムとパートタイムの混合したもの)よりもやや嵩増しされた指標となります。

    平均給与は、最も国際比較できる考え方としては、次のような式で計算できますね。

    平均給与 = 賃金・俸給 ÷ 雇用者数

    賃金・俸給(Wages and salaries)は、労働者への分配となる雇用者報酬の一部となりますが、雇用者が受け取った給与総額を表します。 雇用者数(Employees)は雇用されている労働者を意味していて、労働者数(Employment)から個人事業主数(Self-employment)を除いた人数です。

    つまり、雇用者に分配された給与総額を、雇用者数で割る事で、雇用者1人あたりの平均的な年間の賃金を計算したのが、上式の平均給与です。

    図1 平均給与 日本OECD統計調査、毎月勤労統計調査 より

    図1が、実際に賃金・俸給を雇用者数で割った平均給与と、毎月勤労統計調査の平均給与を重ね合わせたグラフです。かなり近い数値になっているのがわかりますね。

    毎月勤労統計調査の数値は、5人以上の事業所規模で、公務員などは含みません。

    諸々の違いはありますが、かなり近い水準であることが確認できます。

    今回はこの賃金・俸給から計算される平均給与を用いて、実質化の計算をしてみたいと思います。

  2. 物価指数

    実質化の計算には、物価指数が用いられます。

    主な物価指数は消費者物価指数、GDPデフレータ、民間最終消費支出デフレータです。

    毎月勤労統計調査の実質賃金指数には消費者物価指数、OECDの実質平均給与には民間最終消費支出デフレータが用いられています。

    今回は、1980年、1997年(日本経済のピーク)、2020年を基準年とした実質化を行います。

    実質化の基準年(日本の国民経済計算では参照年とも呼ばれます)というのは、物価指数が1となり名目と実質が同一となる年の事です。

    具体的には、物価指数は次のように計算されます。

    各年の物価指数(基準年=1の倍率) = 各年の物価指数(基準年不定) ÷ 基準年の物価指数

    例えば、1980年を基準年とした場合の物価指数は次のように表されます。

    図2 物価指数 日本 1980年基準OECD統計データより

    図2が1980年を基準とした各物価指数の推移です。

    グラフの最も左にスタート地点が揃いますので、各指標がどれだけ伸びたのかという違いが分かりやすいですね。

    各指標とも1990年代後半をピークにして減少・停滞しているのがわかります。

    GDPデフレータは大きく減少した後、2014年ころから上昇傾向になりますが、消費者物価指数はどちらかと言えば横ばい傾向が続いて、近年上昇傾向といった感じです。

    民間最終消費支出デフレータはその中間くらいの推移ですね。