ヒマになるデメリット

翻って暇のデメリットは世間で考えられているよりはるかに大きい。

シンプルに何もすることがない時間は苦痛を生み出す。これは会社員でとても暇な会社で働いた経験者ならわかると思うが、出社してもやることがない会社は地獄そのもので忙しい会社より遥かに辛い。

朝9時に出社して5分で仕事は終わってしまい、夕方18時までなにもない。周囲に声をかけて仕事をもらおうとしても、みんなヒマなので自分の仕事を渡すことはしない。ムダにエクセルを開いて閉じるを繰り返す日々。自分はまさしくこの経験があり「同じ暇でも家にいれば辛くはないはず」と思っていた。だが、家にいても毎日暇を持て余すと結局は同じことでやることがない苦しみが降臨する。やりたいことが何もない人生は地獄である。

人類の歴史はすなわち、暇の克服といっていい。古代ギリシャでは労働は奴隷が行う苦役とされていた。しかし、その後テクノロジーの進歩や価値観の多様性が認められることで、仕事の中にも技術の向上や創意工夫、クリエイティビティを楽しめる要素が入るようになり、「やりたいこと=仕事」という認識を持つ人が生まれた。現代社会では好きなことを突き詰めると仕事になるケースも珍しくなくなり、ゲーム好きが興じてゲーム配信者やプロゲーマーとして生活費を稼ぐ人も現れている。

今はまだまだ「労働=苦役」という認識が一般的だが、AIやロボットが多くの労働を代替することになれば認識は大きく変わるだろうと予想している。食べるには何も困らないが、暇を克服するために仕事をやりたくても知識や技術不足でさせてもらえない「働きたくても働けない人」が生まれると考えている。ちなみに刑務所の服役囚は何もやることがない土日より、単純作業でも少しずつ熟練が感じられる刑務作業ができる平日が待ち遠しいというのは数々の手記からも暇の辛さを確認できる。

人間は本当に暇になってしまえば耐えることはできないのだ。だが、まったく暇がないのもそれは辛い。暇とはバネのようなもので固くなればしなやかさを失うし、弾力がありすぎてもおかしくなる。ちょうどよい塩梅は人それぞれ、そして人生のステージでも変わってくるのでハンドリングは難しい。暇を制するものこそ、真の人生の勝者と言えるかもしれない。なぜならたとえ大きな資産持ちでも暇を攻略できず、苦しんでいる人はいるのだから。

 

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