日本人が貧乏になったのは終身雇用制度と社会保険料の高騰が大きな理由
まず、本当に小泉改革ってそんなに過激だったのかというと、メインは不良債権処理と郵政民営化くらいで、実際の規制緩和というのは実は大してやってないんですね。
特に雇用に関するものは「本丸の正社員に関する規制緩和はほとんど手付かずだった」と、当時の関係者はみな認めています。
少なくとも「あれ以来、日本は勝ち組と負け組に分断された」とか「弱肉強食になった」みたいな社会に影響を与えるようなインパクトは何もないです。
「アメリカの要望で日本を分断するためにそうさせたのだ」って言ってる人が身内にいたら病院に連れて行ってあげてください。
【参考リンク】規制改革20年「社会制度が最後の壁」 宮内義彦氏
あとよく言われるのが「人材派遣業の規制緩和」なんですが、そもそも派遣労働は雇用されて働く賃労働のせいぜい2.5%ほどで、それが多少規制緩和されたところで全体への影響なんてほぼゼロです。「派遣が増えたから日本人は貧乏になった」って言ってる人がいたら頭がおかしい人なので無視しましょう。
また規制緩和の理由も、正社員の労組が「工場を海外移転されたくないので、自分たちのかわりにリスクを負ってくれる働き手が国内で欲しい」と考えたのが最初で、90年代から官民で議論、設計されて実現したものです。
2000年代にぽっと出てきた竹中さんは全然知らない話でしょう。というかそもそも氏は金融・経済財政政策担当で厚労省はタッチしてないため、こういう文脈で名前が出てくる理由が筆者にはさっぱりわかりません。
ではなぜ日本人は貧しくなったのか。新興国にキャッチアップされる中で産業が空洞化したなどの様々な理由がありますが、国内的な要因としてはやはり「終身雇用のコストと社会保険料の高騰」が大きいです。
どういうことかというと、まず会社は大きな人件費という財布を一つ持っていて、そこから従業員にかかるコストを給料も含め全部払っていると想像してください。
定年が55→60→65歳と(年金の都合で一方的に)上げられ続けた結果、そこまで従業員を雇い続けられるよう、企業は(給料を抑えつつ)お金をいっぱい財布に残しておかねばならなくなりました。
また定年の引き上げにともない、新しい仕事についていけなかったり、やる気のなくなった中高年の数は増加し、一説では400万人とも言われています(筆者はもっと多いと考えています)。
彼らの給料も同じ財布から払っているので、全体の賃金水準はさらに押し下げられます。
【参考リンク】日本で「社内失業者」が増え続けている根本理由
そして、高齢化に伴いうなぎのぼりの社会保険料もやはりこの財布から支払われます。
注意してほしいのは、皆さんの給与明細に印刷されている本人負担の保険料はもちろん、実際は会社負担の保険料もやはり同じ財布から支払われているということです。
それって実質本人負担ですよね。で、それも加味すると、サラリーマンの社会保険料負担は30%という恐ろしいことになっているわけです。
【参考リンク】年齢別にみた所得税・社会保険料負担額のリアル
そりゃ貧しくもなるでしょう。
というわけで処方箋としては
「終身雇用のコストを下げる(=正社員の解雇のハードルを下げる)」 「社会保険料を引き下げる(=高齢者の社会保障をカットする+社会保険料を消費税に置き換える)」
ということになります。
たぶん「小泉改革ガー」って言ってる人達の妄想の中では、日本企業はアメリカ並みに年収2千万くらいもらっている正社員と、年収3百万円台でコキ使われている派遣社員が同じくらいいて、それで全体の賃金が下がってるみたいなイメージなんでしょう(でないと辻褄が合わない)。
そういうイメージを持つ人、そういうのを「いいね」しちゃう人って、少なくともマトモな会社で働いた経験はないんじゃないですかね。
実際には、派遣さんなんてほぼ目にすることはない一方で、仕事してるふりをする中高年社員と、天引きされる社会保険料だけがどんどん増え続ける職場というのが、多くの人にとってリアルなのではないでしょうか。
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2023年10月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。
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