ARGENTINA, ELECCIONES PRESIDENCIALES OCT.2023.

最悪経済の責任者の経済相がトップ得票という不思議な国、アルゼンチン

アルゼンチンの政治は戦後直ぐ政権を担ったペロン将軍を崇拝して誕生した政党「正義党」の威光が現在も依然その影響力を発揮している。それは組織力とバラマキ資金の賜物によるものだ。

10月23日に実施された大統領選挙でトップの得票率を獲得した正義党の候補者セルヒオ・マサ氏は高騰するインフレを抑えるべく昨年7月に経済相に就任した。しかし、インフレは更に上昇を続け現在140%に到達。ハイパーインフレを引き起こす懸念さえある。しかも、貧困率は40%、中央銀行は外貨不足が発生している。

このような最悪の経済事情を抱えながらもマサ氏は大統領選に立候補してトップの得票率を得たのだ。最悪の経済を背負った責任者である経済相がトップの投票率を得ることなど他の国では考えられないこと。しかし、アルゼンチンという国は戦後誕生した正義党のペロン主義は今も磁石のように吸引力を維持している。

8月の大統領予備選でトップだった極右のハビエル・ミレイ氏は2位についた。そして3位となったのがマクリ前大統領の意向を継いだパトリシア・ブルリッチ氏である。どの候補者も45%の得票率に至らなかったということで、上位2者が決戦投票に臨むことになった。その投票日は11月19日。

決戦投票の行方は3位の620万票に依存する

以下に読者に理解し易いように今回の候補者の開票率98.51%の時点での得票数とその率を整理してみることにした。(10月23日付「エル・パイス」から引用)。

セルヒオ・マサ      36.68%  9,645,983票 ハビエル・ミレイ     29.98%  7,884,336票 パトリシア・ブルリッチ  23.83%  6,267,152票 フアン・シチアレティ    6.78%  1,784,315票 ミリアム・ブレグマン    2.7%   709,932票

決戦投票で勝利する為にマサ氏とミレイ氏が狙っているのがブルリッチ氏が獲得した凡そ620万票である。ブルリッチ氏自身も元々正義党の議員であったが、同党がキルチネール派が支配するようになってから離党して、変革と自由主義を唱えて2015年に誕生したマクリ前大統領の政党カンビエーモスに入党した。

この620万票はカンビエーモスの支持者が主体となっている。カンビエーモスが誕生したのは2015年。硬直した保護主義を基盤にした正義党で2003年から誕生した左派政権キルチネール派に反対したのが起因である。

元々キルチネール派に反対した政党ということで、ブルリッチ氏の620万票はミレイ氏に票が流れてもよさそうなものであるが、事態は単純ではない。ミレイ氏には過激な発言が目立ち、アルゼンチン出身のフランシスコ法王を批判するに及んで信心深い人たちがミレイ氏を支持しなくなった。