欧州連合(EU)は27カ国の加盟国から構成されている。対外政策ではジョゼップ・ボレルEU外交安全保障上級代表の主導のもと、外相理事会が開催され、EUの共通外交政策を決めていく。

イスラエル軍のガザ侵攻を支持するドイツのベアボック外相(2023年10月23日、ドイツ外務省公式サイトから)
ところで、ウクライナ戦争でも明らかになったが、加盟国間で対ロシア、対ウクライナのスタンスが異なっているため、EUの統一政策は容易ではない。例えば、ハンガリーはEUの対ロシア制裁には難色を示してきた。
同じように、イスラエル軍はハマスのテロに報復するためガザ侵攻を準備しつつ、空爆を繰り返しているが、EU内にはイスラエルの報復攻撃での評価には温度差がある。即時停戦を求める国がある一方で、ハマスが完全に壊滅するまで戦闘を続けることを支持する国がある。「無条件でイスラエルの自衛権を認める」と主張する加盟国と、ガザ地区のパレスチナ人の人権保護を考慮し、イスラエル軍のガザ報復攻撃には批判的な国に分かれている。
ルクセンブルクで開かれた外相会議では、スペイン、スロベニア、アイルランドなどは、人道的即時停戦を求めるアントニオ・グテーレス国連事務総長の呼びかけを支持したが、ドイツ、オーストリア、チェコなどは即時停戦案に反対している。
アナレーナ・ベアボック独外相は、「テロリストと闘って壊滅してこそイスラエルとパレスチナ人に平和と安全がもたらされる。ハマスは依然、ロケット弾をイスラエルに向けて発射し続けている」と説明。
一方、アイルランドのミホル・マーティン外相は、「戦闘で罪のない民間人、特に子供たちの苦しみは即時停止が必要なレベルに達している。人道援助物資や医療物資の供給を可能にするための停戦は極めて緊急の課題だ」と反論。スペインのホセ・マヌエル・アルバレス外相(代行)は、「暴力を止める時が来た。イスラエルへの過度の支援は国際法の擁護者としてのEUの信頼を損なう」と警告している、といった具合だ。
ハマスの奇襲テロが起きた直後、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はいち早くイスラエルを訪問し、ネタニヤフ首相と会談し、「EUは全面的にイスラエルを支持する」と伝達したことがブリュッセルに伝わると、シャルル・ミシェル欧州理事会議長は明らかに不快感を見せている。曰く、「外交問題で私を無視し、欧州議会との協議もなく、イスラエル全面的支持を表明したことは、委員長の職権逸脱行為だ」といった厳しい批判だ。
ボレルEU外務代表とミシェルEU理事会議長(大統領)は、フォン・デア・ライエン委員長らEU委員会がイスラエル寄りであることは地域におけるEUの利益を損ね、緊張と憎悪を悪化させると非難している。その背景には、同委員長が一方的にパレスチナ人への開発援助支払いを一時凍結すると表明したことへの反発がある(同凍結は撤回された)。
ちなみに、フォン・デア・ライエン委員長とミシェル大統領間の意思疎通は良くないといわれてきたが、EU機関のトップがスムーズな意見の交換ができないようでは、EUの統一外交などは夢のまた夢だろう。「私たちが声を一つにして話さなければ、短期的にも長期的にも地域の緊張緩和に貢献することはできないだろう」という懸念の声がEU高官から聞かれるのは当然だろう。