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「無借金経営」といって、まったく借り入れをしない会社もあります。多くの場合、特に中小企業は銀行などからの借り入れを行って会社を経営しています。というと「借金のある会社って、大丈夫なの?」という意見があると思いますが、「借金がある」イコール潰れそうな会社というわけでもないのです。

「自己資金でも借り入れ資金でも、現金保有が多い会社は潰れにくい」と言うのは経営コンサルタントの横須賀輝尚氏。今回は、横須賀氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル」より、再構成してお届けします。

赤字でも強い会社、黒字でもお金がない会社

本題に入る前に、「赤字」についても前提として解説しておきましょう。漫画やドラマなどでもよく聞きますよね。「うちの会社が赤字で大変なんです!」「今月もうちの家計は赤字だわ!」みたいなセリフ。

要はお金がない、足りないってことはその雰囲気から理解できると思いますが、お金がないのになぜ、会社や家計が維持されているんでしょうか。

赤字というのは、利益が出ていない状態です。

国税庁が2021年3月26日に発表した「国税庁統計法人税表」(2019年度)では、赤字決算を出している法人は実に65.4%と、日本の半分以上の会社が赤字、つまり「利益が出ていない」のです。

そう考えると日本の6割以上の会社が倒産してしまうのでは……となりますが、そうはなっていません。いまも今日も会社は成立している。そのカラクリは、赤字とはあくまで「収入より支出が多い状態を指す」ということだからです。

中小企業を例にとって解説していきましょう

例えば、売上3,000万円の中小企業があったとします。年間にかかる家賃や従業員の人件費などの年間諸経費がざっくり2,500万円。そして、経営者が1,000万円の役員報酬を得ていたとします。 そうすると、経費の合計は3,500万円。売上を超えてしまいます。

「あれ? 売上を超えているのに、なぜ支払えるの?」

と、疑問に思いますよね。会社経営というのは単年で考えるものではありません。良い年もあれば、悪い年もある。例えば、前年はヒット商品が出て、売上が5,000万円あったとしたらどうでしょう。諸経費を同額と考えれば、前年の利益は5,000万円引く3,500万円で1,500万円の利益が残っています。

わかりやすくするため、法人税等の考慮はここではしませんが、前年の利益が残っていれば、今年は利益が出ていなくても、過去の現預金で支払うことができた。つまり、今年は赤字決算。でも、会社は存続している。そういう仕組みなのです。

売上でなく、借り入れでも同じようなことがあります。同様の売上3,000万円、諸経費総額3,500万円の売上構成だったとして、ここに銀行からの借り入れが2,000万円とかあれば、すべての諸経費を支払うことができます。決算上は赤字。でも、会社にお金はある。これが赤字なのに潰れないカラクリというわけです。

少しだけ税金の話をすると、会社には「法人税」という税金があって、単純計算だと会社の売上から諸経費の総額を差し引き、残ったものが利益。この利益にかかる税金が「法人税」です。

ということは、赤字で利益が残らなかった場合に、法人税は課税されないのです。そのため、中小企業の経営者の中には「赤字決算にしとけば、法人税払わなくてもよい!」と考え、役員報酬を高めに設定してあえて赤字決算にしている人もいます。

現預金さえ残っていれば、会社は存続できますからね。

まあ、無理に赤字決算にするということは計画性のない高級車の購入や無駄に高すぎる役員報酬にするということで、これは破壊的に金融機関の評価が悪いです。

そしてそもそも必要以上に経費を計上するわけですから、お金は残りませんし、原則として赤字決算にすることで銀行からは借りられなくなっちゃうので、こうした短絡的な考えの経営者がいることは、ひとつの危険なシグナルと言えますけど。

借金がある会社に、危険はないの?

結論から言うと、銀行などから借り入れをしているだけで、その会社を「危険」ということはできません。例えば、日本を代表する企業のトヨタ自動車。「有利子負債」と呼ばれる借金は、なんと25兆円もあります。

ほかにも、ソフトバンクグループ。ソフトバンクグループには18兆円を超える有利子負債があったりします。こんなにお金を借りているんですね。それでも、「トヨタが借金で潰れる!」なんて話は聞いたことがありません。こんな借金まみれなのに、なぜなんでしょう。

まず、前提として会社を経営するにはお金が必要です。すべて自己資金で賄えれば、 それに越したことはないのですが、現実問題として数千万円とか数億円を社長個人が用意することは難しい。

そこで、金融機関からの借り入れを行うわけです。借りる先は、政府系金融機関の「日本政策金融公庫」や都市銀行や地方銀行などの「銀行」。そして地域に根ざした信用金庫や信用組合です。

重要なのは、その借りたお金の使い方になります。例えば、借りたお金をすぐに使ってしまえば、当然返済が苦しくなります。これは悪いお金の使い方です。

「1,000万円も借りることができた! よし、高級車を買おう!」みたいな浅慮の社長はなかなかいないですが、いまの運転資金と合わせて、返済計画を考えながら、きちんとプールする分はプールする。これが正しいお金の借り方であり、使い方です。