10日に発生した銀行間送金システム「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」の障害は、11日午前7時現在も完全復旧のメドが立っておらず、障害が長期化しているが、同システムで顧客取引に影響が出る障害は1973年の稼働以来初めてであり、約50年にわたり1度も障害が生じていなかったことが一部で話題を呼んでいる。なぜ今回、50年目で初の障害が起きたのか、また全銀システムとはどのようなシステムなのか。識者の見解を交えて追ってみたい。

全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営する同システムは、1000以上の金融機関が接続し、企業や個人間の送金に使われる基盤。7~9日の3連休中に14の金融機関で同システムと各金融機関のシステムを接続する中継コンピュータの更新作業を実施していたが、11の金融機関で銀行間手数料をチェックする機能に不具合が発生。その結果、11の金融機関から他行宛ての振り込み、および、これらの金融機関への他行からの振り込みができなくなり、約140万件の取引に影響がおよんだ。11の金融機関は、三菱UFJ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、山口銀行、北九州銀行、三菱UFJ信託銀行、日本カストディ銀行、JPモルガン・チェース銀行、もみじ銀行、商工組合中央金庫。

全銀ネットは10日、「バックアップ手段を用いて、受付済の取引については、本日中の着金を予定している」と説明していたが、その後、「バックアップによって、本日受け付けたものの作業を進めてているが、量が多くて本日中に対応しきれるかの見通しが立たなくなった」と説明を変更。すでに100万件の送金を処理したが、残りの40万件は処理が11日までかかる可能性があるとしている。「5・10日(ごとおび)」は企業の決済集中日であり、広い範囲に影響がおよんでいる可能性もある。

「トラブル発生が確認されたのが昨日8時30分であり、24時間以上たった今(11日9時30分現在)も復旧しておらず、障害は長期化している。中継コンピュータ、いわゆるリレーコンピュータはシステムのなかでもやっかいな部分で、トラブルの原因になりやすい。今回は各銀行と全銀システムに接続する中継コンピュータの更新作業で問題が生じたということなので、ありがちな障害といえる」(大手ベンダーSE)

大幅な刷新プロジェクトが進行中

全銀システムは2027年の次期システム稼働を目指し、大幅な刷新に向けたプロジェクトが進行中だ。現在の富士通製メインフレーム型からオープン基盤型へ移行し、プログラムもCOBOLからJavaなどへ移行。中継コンピュータを廃止し、APIゲートウエイを利用する形態に変更することが決定している。内国為替などの中核業務を担うミッションクリティカルエリアの運営は現在、NTTデータが担っているが、次期システムの構築もNTTデータが行うことが先月に決まったばかりだった。

「障害は中継コンピュータのハードウェアの入れ替え作業で生じたということなので、ハード自体の不具合か、全銀システムに接続しに行く銀行側に問題があったのか、もしくは全銀システム側の問題なのか、原因はわからない。本番作業前には全銀システム側と銀行側の間で入念にテストやリハーサルを行っていただろうから、よほど不測の事態が起きたと考えられる。ただのハード障害であれば、ここまで復旧に時間がかかないとも思われ、プログラムや作業手順にミスがあったのかもしれない。いずれにしても銀行間送金という中核業務で障害が起きた以上、運営を担うNTTデータの責任は大なり小なり今後追及されるだろう」(同)

システム開発会社SEはいう。

「50年間、1度も業務に影響をおよぼすレベルの障害が起きていないということのほうが異例といえ、障害は必ず起きるものなので、ことさらに全銀ネットやNTTデータが批判されるべきではない。古いシステムだから障害が起きたというわけではないだろうし、数年に1度のペースで大幅な刷新を行ってきたということなので、新しい技術は取り入れられている。ホストコンピュータ型からオープン型への移行は世界の流れなので避けられないが、オープン化されればシステムはより複雑になり運用の難易度は増す。領域ごとに複数のベンダーが参加することになれば、その度合いは増すので、このタイミングで障害が発生したことで、システム刷新プロジェクトではより注意深くリスクの洗い出しが行われたり、ことによっては大幅な方針転換なども検討されるかもしれない。もっとも、NTTデータはこれだけ大きなシステムを長きにわたり運用してきたため、同社しか把握していない情報やノウハウも多く、他社に一気に運営を切り替えることは事実上不可能。NTTデータが外されることはないだろう」