育休問題の根本原因は中小企業の人手不足にある?
だが、こうした金銭的な補助だけではカバーしきれない問題もあるという。
「シンプルに給付金の金額が低いという点はあるでしょう。また、会社側にも育休中の欠員補填や売上が下がるというデメリットはあります。これこそが苦しいポイント。そういった意味で、国が会社側にも補償を出すべきという部分は少なからずあるかもしれません」(同)
育休制度などの仕組みは大企業が前提になっているという意見もある。
「前提として、育休を社員に与える義務や育児休業給付金に関して、大企業と中小企業で差があるわけではありません。問題視されているのはそこではなく、社員が育休を取ったことで起きる影響を大企業のほうがカバーしやすいという現状があることではないでしょうか。
例えば、大企業の場合、人事部などで社会保険の手続きのみをタスクにしている人がいるように、業務が細かく分担されているので1つの業務に集中することができる環境が多いでしょう。これは、欠員が出た場合に別の人が他の業務を分担できる余裕があるということでもあります。また、単純に社員数が多いので1人の作業を何分割にもできます。
ですが、中小企業の場合はそう簡単にはいきません。人事部の例でいえば、常日頃から社会保険や給与計算、人材の採用、人事評価などマルチタスクが求められます。その上、社員数も大企業に比べて少ない。そこに育休で欠員が出た場合、他の人員で補填することの負担が大きくなってしまいます。また、代替要員の採用を試みても、マルチタスクができる人材と巡り合うことができず、なかなか決まらないという企業も多いかもしれません」(同)
こうした現状に対する改善策はあるのだろうか。
「育児休業は、性別に関係なく取得できる制度です。いつ誰が育休を取得しても業務が回る組織を創るためにはどうしたらよいか? を企業全体で考えていくことが必要といえるでしょう。社内でフォローし合える体制、環境、意識改革など、まずは経営者が積極的に推進していくことも必要です。業務の標準化、適正化、効率化など労働者の声を聞きながら改善プロジェクトを進めていくとよいでしょう。
また、人材不足という問題も中小企業にとっては大きな課題です。『求人を出しているのに応募が来ない』という声も聞こえてきます。賃金の問題、働く環境、教育プログラム、キャリア設計など、なぜ採用ができないのかは企業によって課題が異なると思います。ですが、まずは、目の前にいる従業員の声を聞いてみてはいかがでしょうか。従業員の考えと経営者の考えは完全には重なりませんが、ベクトルを同じ向きにするためにも、『組織との対話』がより働きやすい環境づくりにつながることでしょう」
また矢島氏は、今回話題となったツイートでは女性ばかりフォーカスされているが、こうした問題は何も女性に限った話ではないことにも留意してほしいと語る。
「育休は男性でも取得できるものです。厚生労働省の2020年の調査によれば、女性の取得率が81.6%に対して男性は12.7%と、女性のほうがこうした問題にさらされやすいという側面はもちろんあります。しかし、この議論をする際に性別の差ばかり強調してしまうと本質を見失ってしまうように感じます」(同)
中小企業が抱える深刻な人手不足と、そこに端を発する育休取得問題が改善されない限り、こうした苦肉の策を取らざるを得ない中小企業はほかにも出てきてしまうのかもしれない。
(文=A4studio、協力=矢島志織/特定社会保険労務士)
提供元・Business Journal
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