羽田空港の名物ともいえる、保安検査場上部の大型電子掲示板(デジタルサイネージ)。これをANA(全日本空輸)は2月に撤去し話題となる一方、SNS上では「とりあえず地上係員を片っ端から捕まえる高年齢・子連れの方々」「運行情報とか見るのは大型モニターの方が良かった」などと不便さを指摘する声もあがっている。そこでANAに、撤去の理由や混乱が生じているのかどうかなどを聞いた。

 ANAはこれまで羽田空港第2ターミナルの保安検査場(A~D)に大型電子掲示板を設置し、各出発便の便名、出発時刻、行き先、搭乗口などの情報を表示していた。今回はこれらを撤去する一方、出発フロア中央やカウンター上部の大型掲示板については設置を続け、搭乗者には個別にモバイルアプリ「ANAアプリ」へ搭乗に関する情報などを提供する。

 ちなみにJALは第1ターミナルの保安検査場(B、C、E、F)に大型掲示板を設置しており、撤去の予定はない。スターフライヤーとスカイマークは従来より第1ターミナルにある保安検査場に大型掲示板は設置しておらず、検査場入口横の小型モニターで情報を表示している。

 ANAは現在、利用者の各種手続きや情報提供をANAアプリに集約する一方、空港内の設備の整理・縮小を急いでいる。2023年度中に全国51空港に437台設置している国内線の自動チェックイン機を廃止し、チェックインや発券手続きをANAアプリで行うことを促す。だが、今回の大型電子掲示板の撤去に関しては

<スマホ使ってる層からしても、運行情報とか見るのは大型モニターの方が良かった>

<使えない人はもちろん、両手荷物で塞がってる時とかどーすんの>

<ANA上級会員を維持する程度には飛行機に乗る私ですら、両手塞がってると大型モニターで確認する>

などと不便さを指摘する声もみられる。また、ANAでは今月3日、国内線システムで障害が起こり、国内線全便の予約・販売・搭乗手続きができなくなり、利用者へのANAアプリでの案内もできなくなるという事象が発生。その結果、同日の国内線55便が欠航、153便が30分以上の遅延となった。

システムのリダンダンシーの観点

 航空経営研究所主席研究員で桜美林大学客員教授の橋本安男氏はいう。

「今回ダウンした旅客システムは予約やチェックインなどの機能を持つが、ANAアプリが使えなくなったことで、利用者は遅延・欠航に関する情報をアプリから入手できなくなった。一方、空港内の電子掲示板は航空機の運航を管理する運航系システムとデータ連携しているため、利用者は電子掲示板から遅延・欠航情報などの情報を得ることができる。大型電子掲示板が撤去されることによって、スマホを使いこなせない中高年や、荷物で手がふさがっていたり小さなお子さんを抱える利用者が不便さを感じるというデメリットに加え、まれにシステム障害でアプリが使用できなくなった際に遅延・欠航などの運航情報にアクセスしにくくなるというデメリットも生じる。システムのリダンダンシーの観点からも、誰もが見やすい大型電子掲示板が設置されているほうがベターではあろう」

 ANAが大型電子掲示板を撤去した背景について橋本氏はいう。

「コロナ禍で一時的に財務が悪化したANAは、航空事業一本だけに依存するリスクを認識し、デジタル戦略としてスーパーアプリ構想を掲げて、ANAマイレージクラブアプリ上でECモールや決済のANA Pay、ホテル予約などさまざまなサービスを展開している。そうした顧客の囲い込みの動きのなかで、電子掲示板や自動チェックイン機を撤去して、予約やチェックイン、情報の案内などをANAアプリに集約し、利用者をアプリを通じてANA経済圏に誘導しようという意図があるのではないか。JALとは対照的なANAらしい攻めの経営と評価できなくもない」