
日本共産党・志位委員長と小池書記局長NHKより
顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久
日本共産党は日本防衛の政策については、やはり究極的には非武装を求めることが改めて確認された。私自身が10月11日、日本共産党幹部会委員長の志位和夫氏に質問をして、明快な回答を得た。日米同盟に反対、自衛隊にも反対、では後はどうするのか、と問うと、志位委員長は「日本独自の防衛組織は持たない」という趣旨を述べたのだった。
独立国家が自国への軍事力での攻撃や威嚇に対して自衛する手段をまったく持たない。こんな主権国家はこの世界には存在しない。外部からの侵略や脅しに自国を守ることをしないとなれば、残された道は、外国への屈服、つまり降伏だけである。日本共産党は公党として世界でも例のない異端の政策を掲げているのだ。
志位和夫氏は同11日、国会の衆議院第一議員会館の会議室で講演をした。講演企画企業の時局心和会の主催だった。経済界、政界、メディアなどの関係者が50人ほど集まってのこの会合で志位委員長は1時間ほど講演し、残りの30分ほどを質疑応答にあてた。同委員長は講演ではまず日本共産党がまとめた「経済再生プラン」について語り、続いて外交や安保について同党の政策を説明した。
ワシントンから東京に戻ってまもない私自身は日本共産党の外交・安保政策に関心を抱いていたので、熱心に志位委員長の明快な語調での話を聴いた。
同委員長はまず岸田政権の防衛政策について「不必要な大軍拡」だと非難し、アメリカの防衛政策に対しても「一方的に緊張を高める危険な軍事戦略」だと批判した。そして外交による平和実現の努力への重要性をもっぱら説いたのだった。
ただし、この説明では日本やアメリカがいまなぜ防衛力を強化するのか、の原因の指摘がまったく欠けていた。日本やアメリカが防衛増強へと動くのはいうまでもなく、中国の軍事大膨張、北朝鮮の核兵器・ミサイルの挑発的な大増強への反応である。自国、自陣営に迫る明確な軍事脅威があるからこそ、防衛力をふだんよりは強くして、相手の侵略や攻撃を抑える。つまり抑止の戦略である。
ところが志位委員長はこの「原因」にまったく触れないのだ。日本の安全保障を語りながら、中国と北朝鮮の動向にまったく触れないというのは、なんとも奇異である。志位委員長は日本の安全保障政策として、以下の骨子を述べたのだった。
アメリカの軍拡に従うことは危険だから、日本は日米安全保障条約を破棄し、日米同盟を解消する。 自衛隊も厳密には「戦力」であり、憲法違反だから、やがては解消する。ただし日本にとっての安全保障環境が完全に平和となる時期までは存続させる。 日本の防衛政策としての抑止にも反対する。抑止は相互の恐怖に依存しており、危険きわまる概念だといえる。 日本国憲法は戦力や交戦権を否定した9条が最重要であり、この憲法を大切に守る。日本が戦争や戦死者を出さないできたのは、ひとえにこの憲法9条のお陰だ。 日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)の平和保持の方式を学ぶべきだ。ASEAN諸国はアメリカにも中国にも偏らない対外政策をとって、平和を保ってきた。こうした趣旨の志位委員長の講演に対して、私はまず質問の冒頭でこちらの意見として、日本やアメリカの最近の防衛力増強はあくまで中国や北朝鮮、さらにはロシアの軍拡、軍事力行使の実例、その結果としての自国、自陣営への脅威の増大に対応した動きであることを指摘した。なにもないところに日本やアメリカが急速に、一方的なに取り始めた防衛強化策ではなく、あくまで中国や北朝鮮の行動を原因とする結果だと、説明した。
東南アジア諸国についても、その中核のベトナムやフィリピンは中国の軍事力行使の犠牲となり、こんごの抑止のためにアメリカへの依存や接近を強めている現実を指摘した。中国に対して穏健な態度をとるかのようにみえるのは、東南アジア諸国側が独自の軍事力がまったく弱小だからといえるのだ。