ロシア・ウクライナ戦争は、いよいよ欧米ブロックvsロシアの縄張り争いだとイスラム圏でみなされる度合いは高まり、解決に向けた多国間外交・国際世論喚起は、欧米諸国が協力に支援するウクライナに不利に働くだろう。そもそもロシアの全面侵攻に国際的な注目が吸い寄せられていた状態こそが、ハマスが打破したかった状態であったはずだ。欧米諸国は、その罠にはまった、と言わざるを得ない。

日本の立ち位置は曖昧模糊としている。日本は、中東政策全般で、欧米諸国よりも中東諸国の意向に配慮した態度をとってきている。今回のハマスのテロ事件後も、非人道的な行為を非難しつつも、暴力のエスカレーションの回避を求める、といった曖昧な言い方に終始した。欧米諸国のように積極的にイスラエル支援を打ち出してイスラム圏との反目に巻き込まれるのを避けたいという意図の表れで、それは曖昧な範囲で、効果を持っているだろう。

だが日本にとって、同盟国・友好国である欧米諸国の権威が失墜し続けるのは、望ましいことではない。もちろん日本にできることが限られている。それを当然として冒険的な態度に出ることは控えるとしても、ただ曖昧なだけでいいとも思えない。

ロシアのウクライナ全面侵攻以来、岸田首相をはじめとする政権高官は、「国際社会の法の支配」の重要性を訴えてきている。イスラエル・パレスチナ問題に接しては、「国際社会の法の支配」を言うことを控える、というのは、全く望ましくない。あるいは欧米諸国の建設的な関与を引き出すためにも、実際のところカギとなるのは、「国際社会の法の支配」だ。

蛮行に対抗して市民を保護するための「イスラエルの自衛権の行使」については、支持や理解を表明していい。他方、その自衛権の濫用を少しでも予防するため「国際人道法にのっとった武力行使」の重要性を愚直に訴えていきたい。またイスラエルの占領が国際法違反であることも、繰り返しあらためて確認してよい。

混迷する中東情勢に、明確な座標軸がないように感じられるだろう。しかし前に進むための手がかりは、自らが標榜しているはずの「国際社会の法の支配」にこそある。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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